「著作隣接権」と「肖像権」がIPTVを阻害する
ストリートビューを肖像権の侵害だと批判する人もいるが、そんな権利を定めた法律はない。しかし最近では、芸能事務所などが「肖像権の侵害」を理由にしてタレントの写真をウェブサイトから削除させる事件が多発している。肖像権を「基本的人権」として認めると、ウェブの表現の自由が大幅に制限されるのだ。
埼玉県の川口市にある「NHKアーカイブス」には60万本以上の番組があるが、今年末から始まる予定の「NHKオンデマンド」で見られるのは、数千本しかないだろう。その原因は、番組のネット配信についての権利処理ができていないからだ。番組の著作権はNHKにあるが、脚本家、出演者などが著作隣接権を有していて、これらの関係者がすべてOKしないとIP再送信できない。
特に厄介なのが肖像権だ。NHKは、ドキュメンタリーでも取材した相手の肖像権をクリアーしなければ配信しないという独自の基準を設けているため、例えば水俣病を扱った有名なドキュメンタリー「奇病のかげに」を再放送するため、この番組を作ったスタッフの取材メモを見て登場人物(ほとんど死亡)の遺族にひとりひとり了解をとったという。これでは、IPTVはとても採算はとれないだろう。
「期待権」を認めたら、表現の自由は崩壊する
今年6月、最高裁は「女性国際戦犯法廷」についてのNHKの番組について、取材を受けた側の期待にそって放送するよう要求する権利があるという「期待権」を斥ける判決を出した。原告側(模擬裁判の主催者)は、問題の番組が直前になって政治家の圧力で改竄されたと主張したが、裁判長は「取材対象者の抱く期待と信頼は法的保護の対象とはならない」と期待権そのものを否定した。
これは当然である。それは逆を考えればわかるだろう。例えばNHKが汚職事件で逮捕された政治家にインタビューして放送した場合、政治家が「私は潔白だと主張したので、NHKがその期待に反して私を犯罪者扱いしたのは期待権の侵害だ」という主張を認めたら、およそ報道は成り立たない。
もちろんグーグル社に対して「ストリートビューでうちの庭の中が見えるのは困る」と抗議するのは自由だし、権利侵害がある場合には修正も必要だろう。しかしグーグルに修正を強制する権利はだれにもない。憲法に定める表現の自由は民主主義が成り立つための絶対条件であり、安易に例外を作ってはいけないのだ。他人の言論を制限しようとする「権利のインフレ」は表現を窒息させ、ウェブを不自由にするだけだ。
筆者紹介──池田信夫
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1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。















