ニコニ・コモンズや初音ミクも話題に
初日の30日は、まずiCommons事務局長のヘザー・フォード氏、提唱者レッシグ教授、今年からCCの2代目CEOとなった伊藤穣一氏が登場。あらためてCCの理念を語った。レッシグ教授によれば、ソニー・ボノ法で米国での著作権保護期間が延長されたことにより、ひとつのコンテンツが産み出す次の作品へのインセンティブは、金銭に換算すると100ドル/年からわずか7セント/年に減ってしまったのだという。「レコード会社の役割は、音楽が記録された『プラスチック板』を守ることではないはず。何を本当に守りたいのか考えないと」と締めくくった。
それを受けた伊藤穣一氏だが、レッシグ教授の理念には「学者の夢」的な部分もあり、伊藤氏の考える「オープンイノベーション」にもCCの活動は意味があるという。TCP/IPやHTTPといった技術のレイヤーがインターネットをインフラとして普及させるのに役立ったように、CCが著作権をもっと利用しやすくなるインターフェースとして機能すれば、イノベーションが促進されるという。
CCとビジネスの可能性
というわけで、日本からの参加者は著作権やCCのビジネス的応用についてのセッションを展開。シンポジウムではニワンゴの木野背友人氏が、CCのライセンスをニコニコ動画に応用し、独自のライセンスを提唱する「ニコニ・コモンズ」を紹介。クリエーターとユーザーとの境はいまやあいまいだが、二次創作をめぐって「公式黙認」や「事前許諾なしに改変可」「貪欲な変更は炎上の元」といった、日本型の良識で縛るという驚異の考え方を打ち出した。
そのほか、X-Arts和田昌之氏が、草の根アニメクリエーターを登録し、作品マネジメントやコミュニティ、バイラルマーケティング機能を提供するWebサービス「アニクル」を紹介。@nifty動画共有の黒田由美氏、ClipLifeを展開するNTTの段野光紹氏、ソニー・eyeVioの向後正樹氏など動画共有のサービスを提供する各社は、CCライセンス付き動画をユーザーが投稿することで、安心してビデオコンテンツを流通させることができ、ビジネスに役立つ例を紹介した。
クリプトン・フューチャーメディアの西尾公孝氏は、自社サイト「ピアプロ」で「初音ミク」の二次創作の場を提供し、創作への欲求を盛り上げた経験などを元に、CCJP公認キャラクターコンテストを開催。「CCライセンス認知度の向上、キャラクターを使った啓蒙活動ができる。また、コンテンツ改変の度合いなどを参加者が話しあうことで、議論が盛り上がってほしい」と語った。コンテストの優秀作品は、次のボーカロイド候補にもなるとのこと。
ビジネスの土台にもなるCCライセンスだが、それはあくまでも現行の著作権制度の中で機能しているものでもある。日本の著作権法の不備や展望については、「そもそもベルヌ条約自体がアナログを前提としたもの、デジタル時代に合わない」という情報セキュリティ大学院大学副学長の林紘一郎教授、「組織化されやすい利益はすぐ法に反映されるが、組織化されにくい、ユーザー利益などは反映されにくい」と北海道大学法学部の田村善之教授、「文化保護=著作権を権利者団体寄りに改正することだった時代は終わり、保護とユーザーニーズが均衡する著作権のグランドデザインを作るべき」という音楽ジャーナリストの津田大介氏、「分散して存在するコンテンツの権利をまとめてワンストップにしよう」と産業論の立場から提唱する早稲田大学客員順教授の境真良氏らが語った。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの澤伸恭氏によれば、文化庁もそういった議論は認識しており、CCライセンスなど民間の取り組みを後押ししつつ、日本向けに著作物の取り扱いを権利者が「宣言」する仕組みについて研究会を作り、実証実験も行う予定だという。
最終日、8月1日は、話題の政策提言「ネット権」を提唱した角川歴彦社長も登場、日本の著作権を取り巻く状況に新しい展望を語ってくれる。海外の先進的な取り組みや、固い話ばかりでないクリエイティブ・コモンズの花、アート系のイベントについてはまたあらためて紹介したい。