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キャリア・ピックアップ 第55回

イベントレポート

IT業界で10年泥のように働いてませんよ

2008年07月28日 04時00分更新

文● 稲垣章(大空出版)

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IT業界の実態──徹夜も休日出勤もない!?

 続いて、パネリスト4人と司会進行の岩佐氏の合計5人による、○×回答のFAQが行なわれた。全部で7問ほど取り上げられたが、その中でも「10年泥発言」の回答となったものを紹介する。

「10年泥のように…」について、○×形式で回答が行なわれた

【質問】
仕事の全体が見えなくて、自分は大きな歯車の1つになってしまうのか。

【回答】

全員×

 「そういう感覚が当時(入社2年くらい)にあった」という人は1人もいず、5人全員が「全体が見えていた」と回答した。

「メーカーでは、作る製品の企画書が全員でシェアされています。 そのうちの一部を作っているという感覚はあるが、何を作っているのかが見えないということはなかったですね」(岩佐氏)

「商品を出すプロジェクトは、全員が商品を見えていないとできない。現実には、見えていない人同士が集まっているプロジェクトもありますが、そういうプロジェクトは成功していないので、世の中に商品が出ていません」(大谷氏)

 と岩佐氏と大谷氏が、製造業(メーカー)の立場から意見を述べた。加藤氏も「全体が見えていた」という回答であったが、前の2人とは少し異なっていた。

「SIの仕事は全体が見えていないとそもそもできません。営業が動いている部分には見えないところもありますが、実際にシステムを作るにあたっては全体が見えないと、他の部分を管理している人とも連携がとれない。なので、SIで全体が見えないということはありませんね」(加藤)

【質問】
長い下積み期間はあったか。やはり泥のように働かないといけないのか。

【回答】

岩佐氏→○ 加藤氏→× 大谷氏→× 柴田氏→× 尾藤氏→×

 この質問に、○を挙げたのは岩佐氏1人。「初年度の8月まで研修で、工場で部品を組み立てたりした。それから部署に入って最初の半年くらいは、下積みをしているという印象がありました」と語り、「それでも1年くらいでしょうか」と付け加えた。また、ベンダーに勤める柴田氏は、次のようにコメントした。

「研修が8月くらいまであり、その研修でパソコンを知らない人でも、そこそこしゃべれるようになります。研修が終わると、すぐに担当の製品が決まり、その製品について一生懸命覚えて、現場に出て覚えたことをお客さんに伝えていました」(柴田氏)

 このように5人からは、「IT業界は、若いうちは泥のように働かされる」という印象を受ける回答はなかった。「残業が多そう」「休みがなさそう」といったイメージに対する質問「先週20時より前に会社を出た日があるか」「休みは自由に取れるか」にしても、全員が「20時よりも前に会社を出た日がある」「休みは自由にとれる」と回答した。「有給も使わないと、上司に怒られる」といったコメントも出た。

 後半は質疑応答が行なわれ、「IT業界は大きく4つに分けられるということだが、それぞれどれくらいの(就職の)受け口があるのか」や「IT業界のベンチャーの実態は可視化されていない」といった意見が出た。その話の流れで「なぜ日本のIT業界がダメなのか」についての意見がパネリストによって述べられた。

 「エンジニアの待遇がよくないと言われていますが、その一番の原因はエンジニアの仕事を評価して給料に反映できる人が上層部に少ないからだと思います。現状、“プログラマがやる仕事はみんな同じ”として、人月で計算するという産業構造、収益モデルです。それを変えるためには、エンジニアをきちんと評価する新しい会社が出てくる必要があるのではないかと思っています」(尾藤氏)

 また、「日本のIT業界は駄目なのか」について、柴田氏は「なぜ外資に入ったのか」という形で意見を述べた。

「日本のIT業界で悲しいなと感じるところは、日本のシステムインテグレーターさんは海外を見ていない。日本の最大手のSIは海外で仕事をほとんどしていません。逆に、ITソフトウェアベンダーは、ほとんど外資しかない。日本では大きなSIであっても、グローバルで見ると、ベンダーの顧客の中の一部でしかありません。製造業やサービスに関しては、海外視点をもっている企業があるのに、日本のSIは国内だけ相手にしているように感じます」(柴田氏)

土曜の午後に関わらず、キャンパスには多くの学生がいて、キャンパス内にあるオシャレなカフェで、お茶をする姿がみられた

 今回、「IPAX2008」でのコメントがきっかけとなり、IT業界の悪いイメージの是非が問われた。参加したパネリストは比較的大手企業であったこともあるだろうが、これほど「悪いイメージはない」といった意見が集中したことは、少々驚きだった。しかし、現実には、サービス残業などで「泥のように」働いている人が確かにいる。IT業界の労働環境は、完全に二極化されているということなのだろうか。

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