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シグマ標準レンズで撮る、F1.4の世界

2008年07月17日 20時54分更新

文● 斉藤博貴

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実際に撮ってみた


 このレンズの醍醐味は、開放絞り(F1.4)を使用した撮影にある。

 しかし、ピントの合う範囲が狭く、描写の違いがカミソリのように鋭いので、多少の慣れが必要だ。F5.6くらいに絞って使えば、普通のレンズなのだが、F2.8まで開くと「レンズが使い手を選ぶ」側面が見え始める。だから、購入者は長い付き合いの馴れ初めと思ってゆっくりとしたペースで限界に挑んでいきたい。

 このあたり最近の国産スポーツカー、例えば「NISSAN GT-R」に似た一面を持つのかも知れない。若葉マークでも気軽に運転を楽しめるが、熟練ドライバーが乗ればスーパーカー並みの走りが期待できる……。しかし、値段はスーパーカーと比較すれば手頃感があるというのも似ている。ともかく絶対に失敗できない状況ではアクシデントを防ぐためにF2.8くらいまで絞っておくというのもありだろう。

F1.4ギャラリー

 本製品の最大の特徴である、開放(F1.4)でのボケの世界を堪能できるサンプルを掲載する。

F1.4猫

猫の目の所のわずかなエリアにだけピントが来ている。そのほかはすべてがボケている。これが大口径レンズの醍醐味だ

F1.4オシベ

オシベを中心とした浅い被写界深度がいい。前ボケも後ボケもこのレンズから簡単にコントロールできる

F1.4猫

ピントを合わせた子猫の瞳を目立つように、絞り値F1.4時に露出を切りつめると発生する周辺光量落ちエリアを利用した。これこそフルサイズ撮像素子対応レンズの醍醐味だ。

F1.4蛍

F1.4と感度ISO1600の組み合わせで蛍を撮影。蛍の小さな光まで記録できるのは大口径レンズの明るさによるところが大きい

F1.4ヒーター

およそ40年前に製造された米国ダッチ製VANのヒータースイッチをマクロ撮影。反射した光がリングボケになっているのがおもしろい

 もちろんクセはある。例えば、F1.4でAEを使用するとその他のF値に比べて0.3EVくらい露出がアンダーに振られることが多かった。しかし、完璧な道具などこの地上に存在しない。財布のひもが許すならベストな道具を、そうでないならベターな道具を選んで使いこなすしかない。また、この現象はあくまで撮影に使用したレンズとボディの個体同士の相性という可能性も捨てきれない。

 F1.4では露出を切りつめてアンダー目に撮影すると、多少の周辺光量落ちが見られる。しかし、左右両隅からゆるやかに中心に向かってくるので、青空を取り入れなければあまり目立たない。正直、もっと過激な周辺光量落ちが生じるズームレンズを常用しているので、むしろ開放F1.4でも「隅々までこんなに明るいのか」とため息が出た。なお、この光量落ちは1EVほど絞ってF2.0にすれば気にならないレベルまで改善される。

 ただし、周辺光量落ちはEOS 5Dなど、フルサイズの撮像素子で撮影しなければ関係のない問題だ。1.3倍のAPS-Hサイズ以下の撮像素子なら減光する部分は受光範囲外となる。

 解像性は開放絞りから実用域。ただし、筆者としてはF2.8のあたりがシャープ、コントラスト、ボケなど、描写のバランスが一番いいと思う。2EV絞ればピント合わせさえ成功すればどんな被写体にも対応する万能レンズという印象だ。



ノクト・ニッコールをほうふつとさせる設計


 そういえばPIE 2008の会場でもらった資料には「サジタルコマフレアの低減」という記述があった。点光源から彗星の尾の様に伸びるコマ収差がサジタルコマフレアだ(絞った時に表れる光ぼうのことではない)。この言葉で思い出されるのは、やはりニコンのFマウントMFレンズの「ノクト・ニッコール」だろう。

 サジタルコマフレアは大口径化すればするほど影響が目立ってしまう。解決方法はF値を絞ることだが、それでは大口径レンズのメリットが失われてしまう。そこで開放F値でもサジタルコマフレアを抑えられる特殊な設計を施したのが「ノクト・ニッコール58mm F1.2」(生産完了)だった。途中にAi-S化されるなど近代化も図られたが……フィルムAF一眼レフカメラの全盛期のカタログからその姿をそっと消していった。

 50mm F1.4 EX DG HSMは、ニコンの伝説のレンズに類似した特性を与えられているわけだ。

 ついでにトリビアを1つ。ノクト・ニッコール58mm F1.2は前群のもっとも前に来るレンズに研磨仕上げ(削り出し)の非球面レンズを採用することで補正が行なわれている。

 一方、50mm F1.4 EX DG HSMは、最終レンズにガラスモールド非球面レンズを搭載し、さらに変形ガウスタイプを採用することにより、サジタルコマフレアの補正を行なっている。研削加工の非球面は、安定的な品質を確保するにはコストが非常に掛かるが、ガラスモールド非球面では、研削加工方式の非球面レンズよりも安価で、しかも安定した品質を実現できる。発売は前者が1977年、後者が2008年となっている。



夜景撮影で実力検証


 で、このレンズの真価を問うために実際に夜景を撮影実験してみた。結果は、サジタルコマフレアの低減効果は高くほとんど目立たなかった。もちろん、サジタルコマフレアが皆無というわけではない。しかし、それは意図的に作り出さなければ際立って目立つものではなかった。

サジタルコマフレア発生実験


 点光源を撮影し、周囲のフレアを確認するテスト。サンプルはすべてオリジナルを使用している。

サジタルコマフレア

F1.4:左隅の点光源に描写の乱れが見える。その当たりは最周辺部なので解像度がやや落ちる

サジタルコマフレア

F2.0:左隅の点光源に描写の乱れはさらに先端へ追いやられてやや減少。その当たりは最周辺部なので解像度がやや落ちる

サジタルコマフレア

F2.8:左隅の点光源に描写の乱れが先端からも解消された。周辺部なので解像度がやや落ちる

サジタルコマフレア

F4.0:点光源に描写はまったく感じられない。周辺部の解像度もかなり上がる

サジタルコマフレア

F5.6:点光源に描写はまったく感じられない。周辺部の解像度も最高潮だ

 実験では、絞りによる点光源の形状の変化を確認するためにF1.4から1EVステップで撮影した。カメラブレを避けるために感度はISO 400に固定。また、点光源の形状を確認するために露出はかなりマイナス側に補正されている。

 筆者が行なった実験に限れば、サジタルコマフレアによる点光源描写の乱れは絞りF1.4~2.0で発生する。発生場所は写真の四隅の先端という「特定の位置」のみ。やや内側に入れば問題はない。つまり、フルサイズ撮像素子を搭載するEOS 5DではなくAPS-C撮像素子搭載機でなら完全に画角外となる。

 これなら暗いところでも積極的に手持ちで撮れる。しかも手ぶれ補正機能に頼らずに済むので被写体ブレも気にする必要がない。そこで少し考えた。

 ソニーが近い将来に発売するフルサイズ機「α900」で、ボディー内手ぶれ補正機能と組み合わせたらどうだろうかと。ミノルタ時代のAF50mm F1.4も捨てがたい魅力のあるレンズだったが、50mm F1.4 EX DG HSMという選択が加わることは大歓迎だ。もっとも、筆者的には愛機のフィルム一眼レフα-9(SSM対応改造済み)で早く試したいと思っている。

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