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日本のライフスタイルは変えた――次は世界だ

夏野剛氏が退社のワケを告白

2008年07月16日 04時00分更新

文● 石川 温、写真●吉田 武

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携帯のビジネスでの知識はジョブズよりあるが……

 先日、発表となった906iシリーズなどを見ると、ケータイの高機能化や薄型化は、行き着くところまで行ってしまった感がある。この先ケータイには大きな変化が起きないのではないか、という閉塞感すらある。夏野氏がこのタイミングでNTTドコモを去るというのも、ここにひとつの答えがあるようだ。

「このような状況になってくると、僕がこの先、ライフスタイルを変革していくような大きなことを仕掛けていくのはなかなか難しいなと思っている。ドコモで僕ができることは、ほとんどやりつくした感がある」

 やれることはやり尽くしたと語る夏野氏だが、実はこの後すぐに 「もうちょっと正確に言えば今の立場では」と付け加えた。退職時の役職は執行役員。もっと上の立場なら、まだまだやれることがあると語る。そう実感したのが、アップルのiPhoneが登場した時だという。

「スティーブ・ジョブズよりも僕のほうが、携帯に関する知識は深いと思う。しかし、ジョブズはCEOで、自分は一役員に過ぎなかった。つまり全社的に陣頭指揮を執るというのができなかった。iPhoneを見たときに(今の立場では)限界だなあ、というのは感じた」

 どんなに知識が深く、ビジネスに長けていても、トップでなければできることに当然大きな限界がある。iPhoneの登場は夏野氏にとって、ひとつのきっかけだったようだ。

日本の技術が世界で主流でないのは本当にもったいない

 さて、6月20日の株主総会でNTTドコモを去った夏野氏。すでに5月からは慶應義塾大学 政策・メディア研究科特別招聘教授に就任している。「アカデミックな場所で、潜在的な知識や才能がある人にいろいろなチャンスを与えたい」と抱負を語る。その原点というべき経験は1994年にあったという。当時、夏野氏はMBAを取得するためにアメリカ・ペンシルバニア大学ウォートンスクールに在籍していた。

 そこでは「インターネットがリアルビジネスにどう影響を与えるか」について学ぶ機会を得た。実は夏野氏は中学2年生の頃にコンピュータを買ってもらい、プログラミングをしていた「コンピュータオタク」だったという。しかし、当時はまだインターネットが登場して間もない段階。そんな時代に受けた講義に大きな衝撃を受け、インターネットでの“ビジネス”の可能性に開眼する。その後、日本でITベンチャーを立ち上げた後、NTTドコモに入社。iモードを始めることになる。

「僕はウォートンスクールでの経験にとても感謝している。これを逆にみんなに経験してほしい。大学でやりたいのはIT革命が人類、日本人にとって、どういう意味をもっていて、どんなポテンシャルを持っているかを伝えること。IT革命はまだ始まったばかり。これからの20年は、これまでの20年以上に変化が起きる。そこで活躍する人材が出てきてほしいと思う」

 このほかにも、SBIホールディングスなど複数の社外取締役を始め、さまざまな場所で活躍していく予定で「今より忙しくなる」という。

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