このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

西田 宗千佳のBeyond the Mobile 第5回

Atom搭載の工人舎「SC」にこれからの小型PCが見えた

2008年07月10日 11時00分更新

文● 西田 宗千佳

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

「ビューワー」には十分な性能
発熱の低さがなにより魅力

 これまでの小型格安ノートには「2つの欠点」があった。

 ひとつは「遅い」こと。サイズと消費電力、およびコストの制約から、組み込み向けCPUを使うことが多く、処理速度の面で問題を抱えやすかった。

 そしてもうひとつは「熱い」こと。比較的消費電力が低いCPUを使っているとはいうものの、低速CPUゆえに常に高負荷で動作して発熱しやすく、小型であるがゆえに効率的な廃熱が難しい。

 ではSCシリーズにおいて、この2点は解決されているのだろうか? SCシリーズは、CPUにAtom Z520(1.33GHz)を採用している。これは「Silverthone」のコード名で呼ばれていた、UMPC/MID向けのAtomである(関連記事3)。Atomの処理能力は、一般的なPC向けの「Core 2」シリーズに比べると低い。インテル側の説明では、「初期のCentrino(Pentium M)と同等」ということになっている。

 今回はメーカーからの要望で、ベンチマークテストは行なえなかった。そのため、客観的なデータを示せないのが残念なところだが、現時点での印象を語っておきたい。

 率直に言って、スピードが「速い」とは言えない。これまでのUMPCでよく使われていた「Intel A110プロセッサー」より少し速いくらい、というところだろうか。とはいえ、同じくUMPCに採用例が多いAMDの「Geode LX800」や、VIAの「C7-M」に比べると確実にパフォーマンスは上だ。H.264のような重いコーデックを使った映像もきちんとデコードできるし、他機種ではコマ落ちすることが多い「ニコニコ動画」の弾幕も、一般的なPC同様、スムーズに再生が行なえる。

 どちらかと言えば、OSにVistaを採用しているにもかかわらず搭載メモリーが1GBであることの方が性能面では問題だ。アプリケーションの起動などは少々もっさりしている。アプリケーションがメモリー上にロードされた後は速いので、メディアプレイヤーでの再生など、特定のアプリケーションを使い続けることの多いビュアー用途ならば、おおむね満足できる性能、と言っていいだろう。

 メモリーの最大容量は1GBであり、これ以上の増設はできない。これは採用するチップセット(SCH)である「US15W」の制限である。そのため、「メモリーを増設して文書作成などに、メインマシン的な用途でばりばり使いたい」という人には、残念ながらお勧めしかねる。

 むしろ重要なのは、そういった使い方をしても、耐え難いような発熱は見られなかった、という点である。SCシリーズは本体手前の左右に排気口があり、熱はそこから排出される。熱が気になるのは、動作中の本体を両手で持って手に排気が直接かかる時くらいのもの。パームレスト部やキーボードに置いた手に感じる熱はかなり少なめで、あまり気にならない。

本体前面

本体前面。右の丸は内蔵ワンセグアンテナの頂部。左手前の小さなスイッチは電源スイッチ

本体左側面

本体左側面。フルサイズのアナログRGB出力があるので、プレゼン用PCにも適する。右の四角いフタは、GPS内蔵モデルの場合、引き出し式GPSアンテナになる

本体右側面

本体右側面。手前に排気口がある。メモリーカード用のスロットやExpressCard/34スロットが並ぶ。右側のUSBはなぜか縦配置

 その一方で、バッテリー駆動時間は標準添付のバッテリー(2600mAh)を使った場合、カタログ値で3.2時間(JEITA測定法 1.0)。前モデルにあたるSAシリーズ(CPUはGeode LX800)が2700mAhのバッテリーで約4時間、SHシリーズ(CPUはIntel A110)の場合、同じバッテリーで3.3時間となっており、あまり差がない。おそらくは、CPUやチップセット以外の消費電力が大きいためだろう。SCシリーズにおいては、「同じバッテリー駆動時間でよりパワフルになった」と考えるのが良さそうだ。


初物ながら完成度は高く、お買い得
残る課題は「システム全体での消費電力」

 SCシリーズはAtomの良さを生かした、魅力的な製品に仕上がっている。「速度と発熱」という、UMPCの抱える2つの問題点が、おおむね満足いくレベルまで改善されているところは高く評価できる。

 それに加えて、SCシリーズ自身のボディーが、ガッチリと強固に作られている点もうれしい。実際、パネル部への耐荷重性能において、100kgfをクリアーするという。ヒンジ部やキーボードなどにたわみ・ゆがみが少なく、使っている際に不快感や不安感を感じにくいところがいい。付属のストラップでぶら下げるように持ち運べるという要素も、そのような「堅牢な作り」のなせる技だろうか。

 残る課題はバッテリー駆動時間だろうか。無線LANを使って通信をし続けた場合には、カタログ値の3.2時間より、駆動時間はかなり短くなることが予想される。出先で通信を多用するなら、別売のラージバッテリー(価格未定)を使う方がよさそうだ。いかにAtomを採用しようとも、システム全体での消費電力を地道に下げていかないと、なかなかバッテリー持続時間は延びていかない、ということなのだろう。

オススメする人
・どこでも「PCのコンテンツ」を楽しみたい人
・かっちりとした作りのUMPCが欲しい人
KOHJINSHA SC3KP06Aの主なスペック
CPU Atom Z520(1.33GHz)
メモリー DDR2-533 1GB
グラフィックス Intel US15Wチップセット内蔵
ディスプレー 7インチワイド 1024×600ドット/タブレット機能内蔵
HDD 60GB
光学ドライブ 搭載せず
無線通信機能 IEEE 802.11b/g、Bluetooth 2.0+EDR
カードスロット ExpressCard/34カード、3in1メディアカードスロット
インターフェース USB 2.0×2、アナログRGB出力(D-Sub 15ピン)、LAN(10/100BASE-TX)など
サイズ 幅189×奥行き155×高さ33mm(最厚部)
重量 約798g
バッテリー駆動時間 約3.2時間(JEITA測定法 1.0)
OS Windows Vista Home Premium SP1
価格 8万9800円

筆者紹介─西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。 得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)がある。


■関連サイト

前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン