「真っ黒」だったMAD文化を「白」に
── MAD動画の削除と「ニコニ・コモンズ」については、どうとらえられていますか?(関連記事)
津田 MAD動画の削除はニコニ・コモンズと「裏腹」で、今までのニコニコ動画の戦略の延長上にあるんじゃないですか。
ニコニコ動画の初期は、完全な著作権侵害にあたるテレビ番組が、アクセスの多くを支えていました。ただしその中で、ユーザーが自分でいろいろなものを作ったり、コメントでコミュニケーションを取ったり、音楽に絵を付けるようなコラボレーションしたりといった、CGM的な文化が自発的、かつ匿名の環境でできあがっていった。そこがニコニコ動画の面白さであり、スゴさでもあります。
こうした流れの中で今年3月、不正にアップロードされたテレビ番組の動画をすべて削除するという発表がありました(関連記事)。でも、ニコニコ自体の勢いは落ちなかった。ユーザー同士のコミュニケーションや、創作を消費する側も作品を盛り上げるという仕組みがうまく回り始めてしまったら、ニコニコ動画内でも「意外とテレビ番組がなくても大丈夫」という風潮が出てきた。
── 確かにそうかもしれません。
津田 ただ、普通のテレビ番組アップロードとは別に、ニコニコの面白さに「MAD動画」が残っていた。テレビ番組の不正アップロードは、コピーを許可する「複製権」や、ネット上に著作物をダウンロード可能な状態で置く「送信可能化権」の侵害にあたります。MADのアップロードは、これらに加えて、著作者の意図しない改変を防ぐ「同一性保持権」までも侵害してしまう。
これは言い逃れできない、グレーなんてものじゃなくて「真っ黒」な行為で、単にテレビ番組をアップロードするよりも問題が大きい。著作権の財産権も人格権も、二重に侵害してるからタチ悪いですよ(笑)。
ただ、MADはニコニコのひとつの「文化」としてはありました。しかし、あくまでそれはイリーガル・アートとして、不謹慎な面白さに支えられていたんです。もちろんMADがきっかけになって「素材」になったアーティストやアニメ作品が売れるってこともあって、一概にネガティブな面だけとは言い切れないんですが、権利を持ってる側からしたらそんなのは関係ない。
それで権利者からの要請がさらに強くなってきて、ニコニコ動画的にもMADも無視するわけにはいかなくなったんでしょう。著作物に「ただ乗り」してビジネスをしていると非難されないためにも、権利者の要請を全部飲みましょうとなったわけです。
── 今後、MAD動画はなくなってしまうんでしょうか?
津田 MADみたいなコラージュ、サンプリング文化はそれこそインターネットが普及するずっと前から存在していた。でも、一部のアングラ文化だったMADを多くのユーザーに広めたのはニコニコ動画でしょうね。
ただ、著作権ってある種の社会実験ですから、権利者があとからでも「OK」って認めれば明らかに黒いもので白くなる。そういう意味でいえば、これからはもっと権利に寛容な、一般ユーザーやセミプロのような人々の作品で、こういう文化は受け継がれていくんじゃないでしょうかね。
ニコニコ動画という場所が楽しかったから、質の高いセミプロ、プロに近いアマチュアのクリエーターがどんどん流入してきた。そして、MADも含めたいろいろな作品を作るようになった。全体的な動画のクオリティーが底上げされた今なら、権利者から依頼があったMADは消してもいいんじゃないかと判断したんでしょう。まあ、怒られないギリギリまで引っ張ったって言い方もできるかもしれませんが。
文句があったMAD動画は削除する。でも、MAD文化そのものは尊重したいから、MADを自由に作れるための大まかなルールを整えましょう──。というのが、今回のMAD削除と、ニコニ・コモンズの全体的な流れなんだと思います。
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