月刊アスキー 2008年8月号掲載記事
車を運転中に、信号無視をしたことは? 故意ではなくても、前にトラックなどが走っていたために信号機が隠れて見えなくなり、気付けば赤信号を通り過ぎていたり……。そんなうっかりドライバーに注意喚起を促す、強力な安全装置が考案された。横断歩道の手前でドライバーの行く手を遮る巨大な「壁」を出現させる、その名も「バーチャル・ウォール」だ。
車両用信号機が青の間は何事も起こらないが、信号が黄色になると、道路の両端に設置された投影機がレーザー光線によるバーチャルな壁を作り出す。ドライバーからすれば、車を走らせていると突然目の前に巨大な壁が立ちはだかるので、普通はブレーキをかけて停まるだろう。信号が赤に変わると、バーチャル壁に赤の光線で横断歩道を渡る歩行者イメージが投影され、インパクトはさらに大。赤信号に気付かない不注意なドライバーも、この壁と歩行者は否が応でも目に入るはずだ。
仮に歩行者イメージを突っ切ると、バーチャルな壁の向こうには本物の横断歩道があり、実際に通行人が歩いている可能性が高い。バーチャルで轢いた揚句にリアルでも……考えたくないものだ。
このバーチャル・ウォールは、韓国人プロダクトデザイナーのハンヨン・リーさんが考案したコンセプトデザイン。公共スペースの安全と次世代エネルギーを利用したデザインに興味を持つリーさんは、一昨年、プロダクトデザインの修士論文課題を考えていたとき、同年2月に日本の産業技術総合研究所が発表したレーザーで空中に3D映像を描画する装置にヒントを得て、アイデアを思いついたという。発想の斬新さや見た目のインパクトから“ネタ”と思われそうだが、実際は横断歩道の安全を願うデザイナーの真面目なコンセプトデザインなのだ。
ただし、残念ながら現段階では実用化どころか試作品の目処すら立っていないという。でも、このバーチャル・ウォールが実現したら、事故が減るうえに交差点の風景も楽しくなりそうだ。