「実用」から「装飾」へそして再び「実用へ」
スクリーンセーバーというソフトが登場したころの画面はもっぱらCRTだった。CRTは電子ビームを、画面の裏にコーティングされた蛍光体に当てて発光させる方式のため、いつも同じ場所にビームが当たっていると、その部分の蛍光体が劣化して変色してしまう。その結果、変色した部分とそうでない部分の色の違いで、いつも表示している文字や図形が、電源を切っても画面に残って見える。これがいわゆる「焼き付き」だ。実際に初期のMacでは、かなり使い込むと電源がオフでもメニューバーが見えることがあった。画面をできるだけ黒くして、それがオフになっていないことがわかる程度にランダムなパターンを表示するというのが、元来のスクリーンセーバーの役目だったのだ。
その暗い画面に表示するパターンとしては、最初は時刻などの短い文字列や単純なグラフィックパターン、時計などが一般的だった。しかし次第に凝ったものが登場し、装飾やある種の娯楽として、あるいは何らかの情報を表示する場として利用されるようにもなった。こうなってくるともはや元のスクリーンセーバー機能は失われていく。しかし、そのうちにパソコンのモニターの主流がCRTから液晶へと変遷し、焼き付きはほとんど気にする必要がなくなった。
こうして、スクリーンセーバーはパソコンをアクティブに使っていない際に、何らかの情報を表示するのが主な目的と考えられるようになっていった。また複数の人が並んで仕事をするオフィスなどでは、ユーザーのプライバシー保護、セキュリティーを確保するためのツールとしての機能も担うようになった。
Macの場合、スクリーンセーバーを標準装備するようになったのは、OS X以降で、それ以前はもっぱらサードパーティー製のものを使っていた。最初期のMacでは、スクリーンセーバーとして不可欠な常駐動作が可能なソフトを作成する方法が公開されていなかったため、デバッガーに見せかけてシステムに常駐するものが開発された。この場合にはユーザーインターフェースは一切なく、決まった時間が経過すると画面を黒くして、小さな時計を一定時間ごとにランダムな位置に表示するだけだった。その後「コントロールパネル」として常駐ソフトの開発が可能になると、スクリーンセーバーもそれを利用するのが一般的となった。
サードパーティー製のスクリーンセーバーソフトとしては、ほとんど「一世を風靡した」とも言える「After Dark」がやはり印象的だ。ユーザーインターフェースといい、プラグインモジュールで種類を拡張できる点といい、現在のこの種のソフトの基礎を築いたことは疑いようがない。
Windowsの場合には早くからスクリーンセーバーを標準装備し、コントロールパネルに組み込んでいた。Windows 95では、OS本体が早くもOpenGLに対応したことを受けて、OpenGLによる3Dグラフィックを表示するモジュールも登場した。またWindows 98のころには、一種のプッシュ型情報サービスである「チャンネルスクリーンセーバー」が登場するなど、意欲的なものが開発された。ただし現在では、スクリーンセーバーの位置付け自体が、かなり控えめな存在となっている。
(MacPeople 2008年6月号より転載)
筆者紹介─柴田文彦
MacPeopleをはじめとする各種コンピューター誌に、テクノロジーやプログラミング、ユーザビリティー関連の記事を寄稿するフリーライター。大手事務機器メーカーでの研究・開発職を経て1999年に独立。「Mac OS進化の系譜」(アスキー刊)、「レボリューション・イン・ザ・バレー」(オライリー・ジャパン刊)など著書・訳書も多い。また録音エンジニアとしても活動しており、バッハカンタータCDの制作にも携わっている。
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