塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第9回
塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”
世界の中心で“I”を叫ぶ
2008年07月20日 15時00分更新
最初に本質を教えるということは、常に回帰すべき原点を打つ、ということにほかならない。原点さえ確実にしておけば、迷ってもまた元に戻れる。どんな分野、内容を教える際にも、これはまったく同じだ。教育とは、知識や情報を網羅的に提供することではない。相手が自分で物事の体系を構築していくプロセスを援助するのだ。だからその体系の出発点、基盤となる原点を、最初に明確にすることが指導者の務めなのである。
では最初に教えるにふさわしい英単語は何だろうか。私ならそれは、“I"である。日本語だと、「私」「僕」「俺」「我」「自分」「わし」「うち」「おら」など、さまざまな言葉で表されるが、英語では“I"という一語。
“I"は特別な単語だ。唯一、常に大文字で表記される。なぜこれが特別なのだろうか。それは、英語を用いる人々、「英語人」にとって、“I"がすべての原点だからだ。自己を起点として周囲に広がる社会との関係を構築し、自己を中心として世界を把握する。“I"を始点にして物事を考え、アイデンティティーを確立していく。
常に人が流動し、人と人との出会いが繰り返される社会では、自分とはどういう人間なのかを説明する機会が非常に多い。何を考え、何を感じ、何を好み、何を好まないか。お互いに異なるバックグラウンドを持った人間同士だから、自分を表現して相手に自分を理解してもらうように努める。すなわち“I"を語るのだ。
そのため、自己表現の重要性はおのずと高まり、その表現方法も多様になってくる。同時に、うまく質問をして相手の表現をうながすことも大切だ。それらを訓練する「show and tell」(参考記事)やプレゼン(参考記事)などの場が幼少時から豊富に与えられていることは、本連載でも以前に取り上げた。
(次ページに続く)
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