こんにちは。ビジネス書評家の土井英司です。先月から始まった、新書紹介コーナー「今、読んでおくべき“三大新書”」。今月も、テーマを決めて、注目の新書を紹介して参ります。
最近の売れ筋の新書の傾向を見ていて思うのは、「悩む力」「察知力」「世渡り力」といった、人間が本来持っているべきスキルを扱った本が多いこと。知識で差がつかなくなった分、人間的スキルで差がつくようになったことや、対面のコミュニケーションが希薄になり、そういった基本的なことまでも本で学ぶ時代性が、ランキングに現れているのでしょう。
今月最初にご紹介する新書『悩む力』(集英社新書)は、「悩む」ことを肯定的にとらえ、そこにこそ「生きる意味への意志が宿っている」と喝破した、政治学者の姜 尚中さん初の生き方本。
決して読者を悩みから救うのではなく、むしろ積極的に悩むことが生きている実感を得ることにつながる、という著者の主張は、悩める現代人に、ある種の癒しを与えてくれるはずです。
拡大する「自由」とそのなかでの「自己実現」は、現代人が直面している問題。著者は、これに対して、自我が肥大化していくほど、自分と他者との折りあいがつかなくなる、それによって人間はまた寂しくなってしまう、と警鐘を鳴らしています。
では、どうすればこの「悩み」を解消できるのか。残念ながら本書にはその具体的な解決策は示されていません。それでも、その悩みとの付き合い方が書かれている、という点で、悩める現代人には必読の一冊。特に学生さんや若い社会人の方におすすめしたい内容です。
2冊目は、日本人として初めて欧州チャンピオンズ・リーグ決勝トーナメントに進出したサッカー選手、中村俊輔さんによる『察知力』(幻冬舎新書)。物事の原因を察知する、危機を察知する、チームや上司に求められていることを察知するなど、評価されるために必要な「察知力」を論じた、読み応えある一冊です。
時に、合わないチームや監督のもとで不遇な時を過ごし、それでもなお自己をストイックに成長させ、ファンを魅了してきた著者。本書には、そんな著者の職業人としての哲学、そして戦いの場面場面で彼がどんなことを考え、困難を乗り越えてきたのかが、生々しく書かれています。
例えば、本書では著者が10年以上も続けてきた「サッカーノート」が紹介されています。著者はここに日々の練習・試合の気づきや反省を記録し、それを地道に改善し続けてきました。あの鮮やかなフリーキックからは想像もできないほどの地味なプロセス。ここから我々ビジネスマンが学ぶことは実に多いと思います。
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