「Ask The Expert」コミュニティを支援するGoogleとエキスパートたち
Google Developer Day最後のセッションとして筆者が選んだのは、基調講演でも発表された、初のGoogle認定API Expertたちが集う「Ask The Expert」だ。認定されたエキスパートには、インフラストラクチャを提供するGoogleと、開発を志すユーザーとの中継役として、ユーザーの技術者としての成長を支援する役割が期待されている。
司会を務めるGoogle ビジネスプロダクトマネージャ石原直樹氏は、会場に集結したエキスパートたちを紹介する。栄えある第1回として認定されたエキスパートたちは、古旗一浩氏、石丸健太郎氏、安藤幸央氏(以上Google Maps API)、伊藤千光氏(Google Gadgets API)、田中洋一郎氏、白石俊平氏(以上OpenSocial)、安生真氏(Android SDK)だ(古旗氏は都合により不出席)。また、新しいコミュニティとしてGoogle App Engineコミュニティが同日設立されたことが発表された(エキスパートは未決定)。
いずれも一様に、コミュニティの構成段階なので未だ手探り中であるというものの、コミュニティを発展させてユーザーがアプリケーションを開発する手助けをしていきたいと全員が述べた。コミュニティには、その技術に精通した複数のGoogleの技術者が関与し、手助けを行うことも石原氏より発表された。
コミュニティの紹介の後は、「Ask The Expert」の名とおり、質疑応答形式で聴衆からの質問や意見が求められた。なお、質問者にはOpenSocialのステッカー、同じくOpenSocialの特製Tシャツ、そして日本ではまだ取得できないGoogle App Engineの開発者アカウントのいずれかが選べるという特典付きである。
「APIのドキュメントを読む時間と機能コーディングの時間の比率は?」という質問には、エキスパートらしく、全員がコーディングのほうが圧倒的に時間を使っていると答えた。まずはサンプルアプリケーションを拡張してみて、必要になったときにドキュメントを参照するという手法がよく用いられるようだ。安生氏はAndroidについてドキュメントがあまり書かれていないと発言して会場の笑いを誘った。
続いて「Google Mapsでたとえば『レストラン』と入れると店の名前が表示されるが、そのような情報をGoogle Maps APIで取得できるのか?」という質問がなされた。石丸氏は、そのような情報をJavaScriptで受け取ることが可能だと述べた。さらにGoogle Maps APIコミュニティ担当のGoogle ソフトウェアエンジニア後藤正徳氏は、そのような目的に使えるローカルサーチAPIで、本日から日本語キーワードによる検索も可能になったと補足した。
筆者は、Googleのコミュニティ支援の具体例およびコミュニティから期待するGoogleの支援内容を尋ねてみた。石原氏は、まだコミュニティが立ち上がったばかりで具体例はないものの、エキスパートの利点として、Google内部で行われる非公開テストに招待してフィードバックを送ると共にその技術を先行して習得できると述べた。Google デベロッパーアドボケイトのChris Schalk氏も、エキスパート制度の原型となった米国Googleの制度「API Guru」を紹介し、グッズや非公開テストでのフィードバックをGoogleからの支援に挙げた。安藤氏は、コミュニティによってほかの技術者との出会いが生まれ広がりができたことを感謝し、先の後藤氏のようなGoogleでしかわからない事象に回答が得られる安心感を卒直に語った。
「OpenSocialアプリケーションをどのように開発やデバッグするのが効率的か?」という質問に、田中氏は、Firefox上で動作するスクリプトデバッグアドオンであるFirebugがまず基本と述べた。さらに、コードの断片を試す環境として、気軽に実行できるMySpaceのテストランナーを推奨した。Schalk氏は、OpenSocialのサイトに、動かないコード断片を送っていただくのもよいだろうと述べた。
「いろいろなソーシャルネットワーキングサービスのアカウントがあり、データが単一の場合に、ユーザーの同一性をどのように確保すべきか」という疑問に対して、再び田中氏は、各アカウントの同一性は、それを保有するコンテナ(ソーシャルネットワーキングサービス)側でOpenID(共通ID)に対応するのが望ましいという見解を示した後、OpenSocialは通常、外部のデータサービスを取り入れて使うので、そこで同一の認証機構を使うことは可能だろうと述べた。
「mixiはOpenSocialをいつサポートするか」という問いには、石原氏は苦笑しつつ、「mixiはOpenSocialに賛同を示しており、話し合いを重ねている。サポートの予定はいつかは話せないが、なるべく早いうちにそうなることを期待したい」と答えるに留めた。
「ガジェットを作るモチベーションはどこにあるのか」という質問に対して、伊藤氏は、小規模で単純なガジェットながらiGoogle上でそれらを組み合わせることで便利な環境を構築できる楽しみを挙げた。さらに、ガジェットはiGoogleに限らずGoogle DocsやGoogle Calendar、あるいは任意のWebページで動作するため、応用範囲が広いのが魅力だと述べた。
「Google Maps APIコミュニティでGoogle Earth APIの話題を投稿してもよいか」という疑問に、石原氏はコミュニティの判断に任せるという姿勢をとりつつ、まずは投稿してみて議論が成り立つならそこで進め、量が多すぎてGoogle Maps API自体の議論が埋もれてしまうようであれば分割すればよいのではないかと私見を述べた。続く安藤氏も、投稿を歓迎し、Google MapsとGoogle Earthの領域がとてもオーバーラップしていることから、将来的には両者は統合されるのではないかという見解を示した。
最後の質問は「APIを使って登場を期待あるいは現在作成しているアプリケーション、あるいは既存の面白いアプリケーションをエキスパートから紹介してほしい」という要望である。石丸氏は、Google Mapsアプリケーションはすでに完成度の高いものが無数に発表されており、新規性の高いものというのは難しいかもしれないが、携帯とWebを合成するようなものがあると面白いのではないかと語った。安生氏は、現在Androidはいろいろな業界から注目を浴びており、自身はゲームを作成していると答えた。さらに、組み込み分野ではカーナビが製作されているという例を挙げたほか、本Developer Dayで行われたコーディングセッションのHackathonでも興味深いアプリケーションが作成されたと続けた。田中氏はOpenSocial向けにはソーシャルネットワーキングサービスのOrkutなどで多数のアプリケーションが発表されており、それらのアプリケーションを楽しんだり自身で作ってみるのがいいだろうと述べた。伊藤氏はiGoogleガジェットが今ホットであると述べ、プライベートなWebページの中にOpenSocialと連携してソーシャル情報を組み込めるのが魅力だと語った。
最後に石原氏は、エキスパートはさらに募集中であり、コミュニティでの経験や熱意次第で認定されると述べ、Googleの提供する技術者コミュニティサイトcode.google.comを通じてのコミュニティへの参加を聴衆に呼びかけた。
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