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塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第1回

塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”

表現する人、表現する社会

2008年05月25日 15時00分更新

文● 塩澤一洋 イラスト●たかぎ*のぶこ

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 それでもやっぱりうまく表現できない? 大丈夫。我々にはMacがある。我々の表現をエレガントにアシストしてくれるコンピューターだ。うまく使って自分らしく表現し、それを遠慮なく公開しようではないか。それが「Final Cut Express」や「Logic Express」など、コンシューマー向けソフトに「Express」と名付けるアップルからのメッセージに違いない。Expressは「超特急」であり、「表現しよう!!」なのだから。

 この連載では、大公開時代の人と社会について考えていく。人がアイデアを持ち、表現し、何らかの形に創造し、それを社会に公開するという一連のプロセスについて、その面白さ、楽しさ、喜びを高めるヒントをお伝えできればと思う。またそのプロセスで活躍するさまざまなツールについても、Macとともに取り上げていきたい。そして、MacやWindows、インターネットやブログといったものが生み出されてきた米国、とくに西海岸の文化や社会に対する考察も進めたい。

 17世紀にパスカルは、人間は自然の中で最も弱い葦のような存在だけれども、それは考える葦(thinking reed)であると説いた。大公開時代、人間は自らの考えを表現し、公開できる形に創造する葦(creating reed)である。そしてそのような表現を公開する個人が次第に増え、臨界量(critical mass)を超えると、表現する社会、創造的な社会(creative mass)となる。ひとりひとりが生き生きと創造し、その表現を互いに尊重する。そして公開された表現にアクセスし合いながら、さらに次の表現を生み出す。そのような創造の好循環がめぐり続ければ、豊かな文化が育まれる。

 私が専門にする著作権法は、この好循環を法的に支えるシステムだ。第一条に「この法律は……文化の発展に寄与することを目的とする」と明示されている。個人個人が自由な発想に基づいて自由に表現し、それを安心して世に出せる秩序を形作ることによって、社会の文化的な多様性を伸ばしていこうとする法制度なのだ。大公開時代とは、まさに著作権法が望んでいる世界なのである。

 表現って楽しい。創造って面白い。公開って気持ちいい。そんなワクワクに向けて、針路をとろう。


筆者紹介─塩澤一洋


著者近影

「難しいことをやさしくするのが学者の役目、それを面白くするのが教師の役目」がモットーの成蹊大学法学部教授。専門は民法や著作権法などの法律学。表現を追求する過程でMacと出会い、六法全書とともに欠かせぬツールに。2年間、アップルのお膝元であるシリコンバレーに滞在。アップルを生で感じた経験などを生かして、現在の「大公開時代」を説く。



(MacPeople 2006年7月号より転載)


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