使ってよかった、作ってよかった
心機一転、京都へ移転したはてなが持つ目標は、生活を豊かに、便利で楽しくなるウェブサービスを作ること。国内で1000万人に使ってもらえるサービスを作るために全力を注ぐ。
そのために近藤氏は、はてな起業時の精神「はてなのサービスで生活を変えていく」に、もう一度立ち返ることを誓った。
「例えば10年後は、インターネットを利用者、使う時間、生活における比率はさらに増えているでしょう。何かのサービスを必ず使っているわけで、今の技術ではなし得ないこともたくさんあるはずです。そのときに「使ってよかった」と思われる、「作ってよかった」と思えるサービスを提供できれば一番いい。こじんまりとやっていては、とても世の中を変えたとは言えない。真剣に、1000万人のユーザー獲得を狙っていきます」
1000万人を超えるインターネットサービスの代表格と言えばSNS「mixi」で、5月現在は1400万人の会員数を誇る。近藤氏は、mixiの運営会社である(株)ミクシィの代表取締役社長、笠原健治氏と以前から交流があり、ほぼ同年代の人間の集まった会社が急成長する様子をつぶさに見てきた(関連記事)。
はてなが1000万人のサービスを生み出せなかったワケ
では、はてなはなぜ、これまで1000万人規模のヒット作に恵まれなかったのか。「ユーザーから見て、『使いにくい』『分かりにくい』のだろう」と近藤氏は分析している。もちろん、SNSや動画サービスが流行するタイミングや、その波に乗れるかどうかの運に左右される部分は確実にあるとしても。
「はてなのいい面は、人の真似をするくらいならやらないほうがマシだとか、後先考えずに面白いと思ったら突っ走るところ。悪い面は、満足するのが早すぎたこと。例えばインターネットの先進的なユーザーに面白いと言ってもらえて、すぐに満足してしまっていたきらいはあった」
想定ユーザーの顔をもう一度考え直す必要も感じている。もしも一般人を思い浮かべていないのであれば、1000万人規模までは広がらない。例えば「うちの母親は使いにくくて分からないと言っている」というアドバイスに、「いや、そういう人たちは使ってもらわなくてもいいから」と答えていた心理が、もしかしたらスタッフの心の中にひそんでいたのではないか。
「幅の広い考えがいると思う。新しい仕組み……技術的には新しくなくてもいいのかもしれないけれど、ユニークなことを考える尖った部分と、母親にだって使って欲しいと思える気持ちの広さ、心の状態を両立しなければなりません」
京都に戻ってきてからの近藤氏は、学生時代の友人をはじめとして、生活に密着したレベルでの交友関係が復活した。これが、生活に密着したサービスを提供したいはてなの大きな支えになっている。