このところモバイル界隈は、いわゆる古典的な「ノートPC」よりも、より通信端末としての特性に着目したデバイスが元気だ。例えば、6月末発売予定の(株)ウィルコムの「WILLCOM D4」しかり、インテルが「Atomプロセッサー」を使って開拓を目指す「モバイル・インターネット・デバイス」(MID)しかり。
台湾HTC社の「HTC Shift」は、そんな「ネット端末寄りPC」のひとつ。日本ではようやく発売される製品だが、海外では昨年秋から出荷が始まっている、このジャンルのトップランナーともいえる機種だ。ShiftはモバイルPCの常識を“Shift(移す、変える)する”存在なのか、チェックしてみた。
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UMPCにPDA的機能を取り込んだ異色のノートPC「HTC Shift」。写真左下は付属のスタイラスペン |
高級感のある作りが魅力的
「箱」までの演出がうれしい
Shiftはサイズ的に見れば、富士通(株)の「FMV-BIBLO LOOX U」(関連記事1)や、ソニー(株)の「VAIO type U」(関連記事2)に近い、いわゆる「UMPC」(ウルトラモバイルPC)である。ただしShiftのコンセプトは、例に挙げた製品よりもむしろ、HTCのホームグラウンドであるスマートフォンに近い。
そのイメージを強く印象づけるのが、スライド式のボディだ。閉じた状態ではタブレットPCのようなデザインだが、液晶ディスプレー部がスライドして、そのまま斜めに立ち上がる、という機構が組み込まれている。
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ディスプレーがスライドして立ち上がるという、けれん味あふれる外観ながら、その操作感は質実剛健。動かすだけで妙な満足感が得られる |
凝った機構であるので、一見するとガタツキやへたりがありそうに感じるが、実際に使ってみると駆動部の構造が堅牢で、実用性の高い構造であることに驚かされる。逆に言えば、そこそこ力をかけて、まっすぐ引き出さないとスライドしてくれない。「片手の親指でずらして素早くタイプ」といった感覚では使えない。
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ディスプレーを立ち上げた状態の背面。華奢そうな作りに思えるが、駆動部はしっかりしている。本体背面にはアナログRGB出力がある |
このあたりは、同社製のスマートフォン「S11HT」(関連記事3)に似た“かっちり感”なので、Shiftの感触を確かめたい方は、店頭などでS11HTのスライドを試してみるとイメージしやすいだろう。
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Shiftの左側面。ヘッドホン出力とスタイラス収納部だけというシンプルさ | 右側面。SDメモリーカードスロット、電源スイッチ、USB、ACアダプター用コネクターなどが並ぶ |
仕上げの確かさや堅牢さを感じさせる要素は、スライド機構だけに限った話ではない。外装も金属を採用しており、手に持った時の高級感はなかなかだ。剛性も高く、「弱々しさ」といった感覚とは無縁だ。
逆に言えば、その分だけ重く感じるのも事実である。Shiftの重量は約800g。UMPCの中では重量級であり、実際に持った感覚でいえば、1kg級のノートよりも「ずっしり」とした印象を受ける。日本メーカーの常識からすると、スライド機構や外装をより安価で軽いものに変更してしまいたいところだろうが、HTCはそうしなかった。
そのあたりの発想のヒントは、Shiftの箱を開ける時にある。
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製品のパッケージは高級感にあふれ、内容も充実している。本体を含め、各種付属アクセサリーはすべて、標準添付のケースに収納可能だ |
Shiftは非常に高級感のある梱包に包まれて出荷される。筆者は開けた瞬間、思わす「おおっ」と声をあげてしまったほどだ。開けた瞬間の満足度でいえば、iPodやMacBook Airといったアップル製品に近い。「高いもの、いいものを買った」感じがする演出が施されているわけだ。こうした高級感の演出は、日本のPCメーカーからすでに失なわれた感覚と言っていい。
そもそもShiftは、実売価格が16万4800円と、UMPCとしてはかなり高価な製品だ。しかも、Shiftの機能を生かしきるには3G携帯のデータ通信契約も必要となる(後述)。すなわち、「どこでもすぐにデータ通信でコミュニケーションをとる」という価値に高いお金を払える人に向けた、高付加価値商品なのである。
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Shiftは液晶面が常に露出しているので、持ち運びにはケースを使うべきだ。そのためか、最初からクオリティーの高いインナーケースが付属している。専用なので、もちろんサイズもぴったり |

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