今回より始まるこの連載では、フリージャーナリストの西田 宗千佳氏の手による、モバイルPCのレビューやインタビュー、四方山話などを掲載していく。UMPCやMIDなどの登場により、大きな変化を見せるモバイルPCの世界を、西田氏と共に追っていきたい。
モバイルPCはPCの中でも、製品ごとの特徴がはっきりしているジャンルだ。同じ「軽量B5ノート」であっても、メーカーのポリシーや狙うユーザー層により、製品には大きな違いが生まれる。
残念ながら、そういう点はカタログだけでは分かりにくいのが実情だ。そこでこの連載ではモバイルPCの試用を通じて、「その製品の向くユーザー」を描き出したいと考えている。
第1回はNECの「LaVie J LJ750/MH」だ。現時点では国内唯一のWireless USB搭載PCであり、非常に贅沢な仕様の製品となっている。
「テカテカ+スクラッチリペア」で
個性的なノートパソコンを目指す
言うまでもなく、NECは国内パソコン最大手のメーカーである。だがこの数年間、モバイルPCの分野では精彩を欠いていた。“実直な物作り”といえば聞こえはいいのだが、「これがあるからNECのLaVie Jを選ぶ」というキャラクターに欠けていた、とでもいえばいいだろうか。
このあたりはNEC側も重々承知だったのだろう。今年2月、完全新規モデルとして登場した「LaVie J LJ700シリーズ」(関連記事1)は、デザイン面でも機能面でもはっきりとしたキャラクターを打ち出した製品になった。今回試用したLJ750/MHは、4月に発表された第2世代モデルだが、仕様的には初代モデルとまったく同じである。
LJ750シリーズの最大の特徴は、やはりデザインだろう。パナソニックのLet'snoteシリーズのヒットによってか、最近では軽量モバイルノートの多くが天板にボンネット構造を採用している。NECも2005年に発表した「VersaPro UltraLite」シリーズで、ボンネット構造の天板を採用したことがある(関連記事2)。だが、それでは独自性を打ち出せないということなのか、LaVie Jは非常にシンプルでスクウェアなボディー形状となっている。
そもそもボンネット構造が多い理由は、ディスプレー面の剛性を高め、より丈夫な製品にするためだ。しかし、強度さえ確保していれば平たい天板でも問題はない。LJ750/MHの場合、耐圧加重は300kgfと優秀な数値を実現している。一般的な試用ではなかなかその効果を確かめるのは難しいが、鞄などから出し入れを行なっても、がたつきやしなりなどを感じることはなく、安心感が高い。その分、ディスプレー面は少し厚いが、そのあたりはトレードオフだ。
見ての通り、天板表面はテカテカの光沢仕上げ。高級感の演出としては一般的なもので、決して珍しいものとはいえないが、LJ750/MHの場合は単にテカテカなだけでなく、もうひとつ仕掛けがある。それが「スクラッチリペア」だ。
これは、特殊な樹脂を配合した塗料で天板をコーティングすることで、表面に付く細かな傷を「自動修復」できるというものだ(関連記事3)。
爪をたてて触ってみると、意外とやわらかな感触だ。一般的な塗装の場合、硬度の高い皮膜で「傷を付かなくする」ことを狙うため、爪などで触っても柔らかさを感じることはないが、スクラッチリペアはかなり異なる。傷は付くものの、弾力性のある皮膜でその傷を「なかったことにする」、“柔よく剛を制す”な塗装なのである。
この手の「テカテカ塗装」でよくあるのが、指紋や汚れをきれいにしようとして、ティッシュなどで拭くときに傷を付けてしまう、ということ。iPodの背面あたりでは、ずいぶん痛い目にあった方も多いのではないだろうか。だがスクラッチリペアの場合は、皮膜を削ってしまうような深い傷でなければ、数分で元の状態に戻る。
実際試用してみると、スクラッチリペアの効果はてきめんだ。鞄などにデジタルガジェットを裸で入れると、やっぱり傷が気になるもの。だがLJ750/MHを1週間、帆布製の鞄に突っ込んで持ち歩いたが、結果的に傷は残らなかった。
LJ750/MHのスクラッチリペアは、いわゆる“ヘビーデューティーな環境に耐えるもの”というより、鞄の中でファスナーの金具があたったり、堅い布目で傷がついたり、といった“日常的な傷を防止するもの”と言えそうだ。テカテカ塗装というと、ラフに使うには向かない印象を受けるが、スクラッチリペアと組み合わせることで、傷が付きにくく、普通の布できれいに拭けるため、気楽に使えるものになるわけだ。
ただし、LaVie Jシリーズの中でスクラッチリペアを採用しているのは、最上位機種であるLJ750/MHのみだ。新モデルである白い塗装の「LJ730/MG6W」を始めとした下位機種は、通常の塗装となっている。だから、同じテカテカ塗装と言っても、スクラッチリペアのように使えないので要注意だ。
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