本連載では、ビジネス書評家・土井英司が、毎月のビジネス書ランキングを分析し、現在のベストセラーから未来のビジネストレンドを解説する。
若い世代のキャリア不安をどう解消するか
2007年6月 ビジネス書ベスト10 | |
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1位 | 環境問題はなぜウソがまかり通るのか |
2位 | 投資信託にだまされるな! |
3位 | 人は「暗示」で9割動く! |
4位 | できる人の勉強法 |
5位 | なぜ、エグゼクティブはゴルフをするのか? |
6位 | チャンスがやってくる15の習慣 |
7位 | 働かないで年収5160万円稼ぐ方法 |
8位 | 鏡の法則 |
9位 | 生き方 |
10位 | 「できる人」の話し方&人間関係の作り方 |
若い世代のキャリア不安をどう解消するか
ビジネス書評家の土井英司です。昨年は咲かなかったわが家の紫陽花が、毎日地道に水をやり続けたところ、今年は見事な花をつけてくれました。ビジネスも園芸も毎日のケアが大事、ということですね。
さて、連載第3回となる今回は、2007年6月のベストセラートレンドを分析。今回も、ベストセラーの背後にビジネスのヒントが見て取れます。今、注目のタイトルを軸に、さっそく見ていきましょう。
今月のランキングで目立つのは、若いビジネスパーソンの「キャリア不安」に関連する書籍が上位に来ているということ。
今年3月の発売以来、ベストセラーランキングの常連となった北尾 吉孝さんの『何のために働くのか』をはじめ、シリーズ累計で50万部を突破した浜口 直太さんの『あたりまえだけどなかなかできない仕事のルール』など、若年層向けのビジネス書がじつによく売れています。
最近では、柴田 昌治さんの『なぜ社員はやる気をなくしているのか』も刊行され、現在絶好調。6月は15位にランクインしています。
ちなみに、『何のために働くのか』は、野村證券、ソフトバンクを経てSBIホールディングスの代表取締役CEO、北尾吉孝さんによる、若いビジネスパーソンへのメッセージをまとめた一冊。
野村證券時代、ニューヨーク支店で一日の商いの最高記録を打ち立てたという著者が、その武勇伝と仕事への心構えを披露した、注目の一冊です。中国古典を紐解きながら、仕事に限らず、人生全般で生かせる心構えを説いています。
次の『あたりまえだけどなかなかできない仕事のルール』は、経営コンサルタントである著者が、入社したての若いビジネスパーソンに向けて、社会人としての常識やマナーや仕事の基礎を平易な言葉で説明しています。「非常識な世代」と言われ、現場での評判が著しく悪い20代が、上の世代とのギャップを感じてあわてて読んでいる様がうかがえます。
そして最後に、部下だけではなく上司のためにも書かれた『なぜ社員はやる気をなくしているのか』は、ベストセラーとなった『なぜ会社は変われないのか』の著者、柴田昌治さんが、現場の活力低下の現状とその理由、さらには打開策までを示した、注目の一冊です。人を地位や役割で見るのではなく、考えや意見、関心で評価する。若干バランスに欠けるという欠陥はあってもバイタリティのある人材に高い評価を与える、といった主張を展開しています。この本で指摘していることはこれまでのマネジメント層に欠けていた視点であると同時に、やりがいを求める現在の若者の声を代弁している、と言ってもいいと思います。
これら3冊に限らず、現在ビジネス書では、若い人向けのキャリア本がじつに良く売れています。
ではなぜ、若いビジネスパーソンの「キャリア不安」がそこまで高まったのでしょうか?
その理由は、大人たちがお金や地位、成長以外に、仕事の意義を教えられなかったことにあります。さかんに喧伝された「格差社会」の現実が、不安に拍車をかけたと言っていいでしょう。
だから、ニートのように、働く意義が見つかるまで働かない、という人が出たり、人によっては極端な拝金主義に走ったりするのです。
年配の方がよく口にする「今、頑張っていれば、いつかは報われる」というのは、「終身雇用」「年功序列」といったシステムがあればこその話。今の若い人は、雇用の安定を一切期待していませんから、今の頑張りの成果を「今すぐ」収穫したいのです。それが「やりがい」であっても、「お金」であっても、同じことです。
とはいえ、そのような態度ではなかなか成果が出ないのも事実。だからこそ土井は『「伝説の社員」になれ!』を書いたのですが、今後はこうした若い人の価値観を理解して動機づけられる企業が、優秀な人材を獲得できる、そんな時代になるでしょう。
これまではビジョンや信念のあっても、中小企業であればなかなか優れた社員を採ることができませんでした。しかし、逆にいえば、ネームバリューがなくとも、ボランティアでも、やりがいを与えられる企業であれば、優秀な人材の確保は容易になる。そんな時代が訪れたことを、「働きがい」を求める読者の増加が現しているのではないでしょうか。
2007年6月 ビジネス書ランキング |
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環境問題はなぜウソがまかり通るのか | |
武田邦彦(洋泉社) | |
投資信託にだまされるな! | |
竹川美奈子(ダイヤモンド社) | |
人は「暗示」で9割動く! | |
内藤誼人(すばる舎) | |
できる人の勉強法 | |
安河内哲也(中経出版) | |
なぜ、エグゼクティブはゴルフをするのか? | |
パコ・ム-ロ(ゴマブックス) | |
チャンスがやってくる15の習慣 | |
レス・ギブリン(ダイヤモンド社) | |
働かないで年収5160万円稼ぐ方法 | |
川島和正(アスコム) | |
鏡の法則 | |
野口嘉則(総合法令出版) | |
生き方 | |
稲盛和夫(サンマーク) | |
「できる人」の話し方&人間関係の作り方 | |
箱田忠昭(フォレスト出版) | |
カンブリア宮殿村上龍×経済人 | |
村上龍(日本経済新聞出版社) | |
「心のブレーキ」の外し方 | |
石井裕之(フォレスト出版) | |
何のために働くのか | |
北尾吉孝(致知出版社) | |
図解自分に最適な資産運用が一目でわかる本 | |
SBIグル-プ(高橋書店) | |
金持ち父さん貧乏父さん | |
ロバ-ト・T.キヨ(筑摩書房) | |
なぜ社員はやる気をなくしているのか | |
柴田昌治(日本経済新聞出版社) | |
頭の回転が50倍速くなる脳の作り方 | |
苫米地英人(フォレスト出版) | |
あたりまえだけどなかなかできない仕事のル-ル | |
浜口直太(明日香出版) | |
世界バブル経済終わりの始まり | |
小堺桂悦郎(フォレスト出版) 松藤民輔(講談社) | |
なぜ、社長のベンツは4ドアなのか? | |
小堺桂悦郎(フォレスト出版) |
(日販オープンネットワーク調べによるビジネス書に絞ったランキング。集計期間は2007年6月1日~30日)
土井 英司 (どい えいじ)
ビジネス書評家 / 出版マーケティングコンサルタント / メルマガ「ビジネスブックマラソン」編集長
慶應義塾大学総合政策学部卒。日経ホーム出版社を経て、2000年にAmazon.co.jp立ち上げに参画。 ビジネス・実用書の「陰の仕掛け人」として、『ユダヤ人大富豪の教え』(本田健・著、40万部突破)を始め、数々のベストセラーのきっかけを作った。近著に『「伝説の社員」になれ!』(草思社)がある
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