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ベストセラーがビジネスの未来を創る 第10回

「楽しいけれど本格派」でキャリアアップを目指せ

2008年01月01日 00時00分更新

文● ビジネス書評家・土井英司

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本連載では、ビジネス書評家・土井英司が、毎月のビジネス書ランキングを分析し、現在のベストセラーから未来のビジネストレンドを解説する。

「楽しいけれど本格派」でキャリアアップを目指せ

2007年12月 ビジネス書ベスト10

1位かんたん年賀状素材集
2位パパッと出せる年賀状
3位あっという間に年賀状
4位いきなりプリントすぐポストらくらく年賀状
5位年賀状デ-タ集pack 7000
6位かんたんHappy年賀状
7位おしゃれ年賀状SELECTION
8位速効!パソコン年賀状
9位年賀状イラスト素材集
10位「1日30分」を続けなさい!

ランキングの詳細▼

 こんにちは、土井英司です。今年もよろしくお願いいたします。

 今回取り上げる2007年12月のビジネス書ランキングは、時節柄トップ20のうち5冊までが、年賀状関連書で占められています。虚礼廃止やメールの普及で、年賀はがきの発行枚数は減っているようですが、根強い文化としてまだまだ見逃せません。

 そんな年賀状一色のランキングの中にも食い込んでいるのが、吉本佳生さんの『スタバではグランデを買え!』(ダイヤモンド社)や渡辺健介さんの『世界一やさしい問題解決の授業』(ダイヤモンド社)など、2007年によく売れていた薄くてわかりやすい「お勉強本」でした。

 このお勉強本ブームが2008年にどこに向かうのか? というのが今月のテーマ。2007年のヒットしたお勉強本で特徴的な点は、「体裁はビジネス入門書でも、特定の学問分野の叡智が含まれること」です。

 たとえば、『スタバではグランデを買え!』は、「取引コスト」や「裁定取引」「規模の経済性」「範囲の経済性」「比較優位」などといった経済学上のキーワードが話の中心ですし、『世界一やさしい問題解決の授業』のベースはマッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントノウハウになっています。 2008年以降も本格的な知識が含まれるビジネス書がより求められる、と見ていいと思います。

 そんな流れに乗って今後注目される本が、コンサルティング会社ザカティーコンサルティングの細谷功さんによる『地頭力を鍛える 問題解決に活かすフェルミ推定』(東洋経済新報社)と、ベストセラー作家の橘玲さんによる『悪玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、そしてイェール大学のイアン・エアーズ教授の『その数学が戦略を決める』(文藝春秋)。この3冊はミドルマネジメント層以上でもおすすめの、楽しく学問を学べるビジネス書です。

注目の「フェルミ推定」で学ぶ問題解決法

地頭力を鍛える

著者:細谷 功
出版社:洋経済新報社
価格:1680円(税込)
ISBN-13:978-4492555989

 まず、『地頭力を鍛える―問題解決に活かす「フェルミ推定」』ですが、こちらは、雑誌『Think!』2007年春号に掲載され、大反響を呼んだ「フェルミ推定で鍛える地頭力」をベースに書かれた1冊。

 「フェルミ推定」とは「東京都内に信号機は何基あるか?」「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」といった、一見解決不可能な問題を解くための推定ロジックで、外資系コンサル会社やマイクロソフトの入社試験でも問われています。

 戦略コンサルタントが使っている問題解決技法を一通り学べる、ということで今年売れそうなタイトルです。

高度な理論をうまく読ませる経済版「笑ゥせぇるすまん」

悪玖夢博士の経済入門

著者:橘 玲
出版社:文藝春秋
価格:1650円(税込)
ISBN-13:978-4163265209

 『悪玖夢博士の経済入門』は、一言で表現すると、経済版「笑ゥせぇるすまん」。喪黒福造ならぬ悪玖夢博士(あくむはかせ)が、多重債務に陥った男や利権争いをするヤクザ、学校でいじめに遭う少年、マルチ商法にはまった男などの諸問題を解決(?)していきます。

 話のなかにカーネマンの行動経済学やノイマンのゲーム理論、チャルディーニの社会心理学など経済理論や心理学が巧みに盛り込まれており、難しい理論が実に簡単に理解できます。思わず引き込まれてしまうストーリー展開にも注目です。

「絶対計算」で解き明かす驚愕の世界

その数学が戦略を決める

著者:イアン・エアーズ
訳者:山形浩生
出版社:文藝春秋
価格:1800円(税込)
ISBN-13:978-4163697703

 『その数学が戦略を決める』はクレジットカードの返済実績からレンタカー会社が事故を起こしやすい人を判断する方法や、「冬の降雨量」や「育成期平均気温」の数値を組み込む簡単な数式を使うだけで、批評家が試飲する前のワインの出来不出来を素人が判断する方法など、思わず「そんなのあり?」と驚く事例が満載。本書は「一見関係なさそうで実は相関関係がある」事柄から問題の解決策を導く「絶対計算」という論理思考の技術が可能にする驚きの世界を紹介した知的読み物です。

 今やこの絶対計算は、ビジネスや投資に限らず、医療や政策の改善、犯罪率の低下などに多大な貢献をしている注目の概念で、ビジネスマンにとっても学ばない手はありません。アマゾン・ドット・コムが世界中で成功しているアイデアの源泉もこの絶対計算なのです。

 作家や翻訳家として人気の山形浩生さんの翻訳とウィットに富んだ注釈のおかげで、実に楽しく読める内容になっています。久々に手放しでおすすめできる一冊です。

 紹介した本はいずれも、読者のみなさんの能力を飛躍的に高めてくれる内容。以上3冊を読んで、今年1年をぜひ良い年にしてください。

2007年12月 ビジネス書ランキング

1
かんたん年賀状素材集
技術評論社 編集部(技術評論社)
2
パパッと出せる年賀状
SE編集部(翔泳社)
3
あっという間に年賀状
技術評論社 編集部(技術評論社)
4
いきなりプリントすぐポストらくらく年賀状
技術評論社 編集部(技術評論社)
5
年賀状デ-タ集pack 7000
C&R研究所 デジタル梁山泊 (ナツメ社)
6
かんたんHappy年賀状
SE編集部(翔泳社)
7
おしゃれ年賀状SELECTION
SE編集部(翔泳社)
8
速効!パソコン年賀状
速効!パソコン講座編集部 (毎日コミュニケーションズ)
9
年賀状イラスト素材集
SE編集部(翔泳社)
10
「1日30分」を続けなさい!
古市幸雄(マガジンハウス)
11
すぐできる年賀状デ-タ集ちゅうちゅうスペシャル
ナツメ社 C&R研究所(ナツメ社)
12
おしゃれでかわいい年賀状
毎日コミュニケーションズ(毎日コミュニケーションズ)
13
スタバではグランデを買え!
吉本佳生(ダイヤモンド社)
14
日本の美を伝える和風年賀状素材集和の趣
技術評論社 編集部(技術評論社)
15
キレイ!楽しい!かんたんデジカメ年賀状
技術評論社 編集部(技術評論社)
16
佐藤可士和の超整理術
佐藤可士和(日本経済新聞社)
17
「もうひとりの自分」とうまく付き合う方法
石井裕之(フォレスト出版)
18
世界一やさしい問題解決の授業
渡辺健介(ダイヤモンド社)
19
とっておき!年賀状素材集
ソフトバンククリエイティブ(ソフトバンククリエイティブ)
20
さくさくできる年賀状
ソフトバンククリエイティブ(ソフトバンククリエイティブ)

(日販オープンネットワーク調べによるビジネス書に絞ったランキング。集計期間は2007年12月1日~12月31日)

土井 英司 (どい えいじ)
ビジネス書評家 / 出版マーケティングコンサルタント / メルマガ「ビジネスブックマラソン」編集長
慶應義塾大学総合政策学部卒。日経ホーム出版社を経て、2000年にAmazon.co.jp立ち上げに参画。 ビジネス・実用書の「陰の仕掛け人」として、『ユダヤ人大富豪の教え』(本田健・著、40万部突破)を始め、数々のベストセラーのきっかけを作った。近著に『「伝説の社員」になれ!』(草思社)がある

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