情報は人のつながりで伝わる
つまり、ここではHTTPのコンセプトであるページのリンクではなく、人のリンクによって情報が選別されているわけだ。検索エンジンのように何万ページも出てくるより、このほうがずっと効率的に必要な情報を選別できる。こういう人的ネットワークで結ぶことが、W3C(WWW Consortium)の提案している「セマンティック・ウェブ」※へのひとつの道かもしれない。
米大手SNSの「Facebook」が1億ユーザーを超えた強みは、実名ベースだから人的ネットワークが組みやすいことにある。私のところにも、libertarianというグループのリンクをたどって「中国共産党を倒したい」という中国人から「友達になりたい」と言ってきた。それをOKすると、最近のチベット情勢について1次情報が送られてくる。
※セマンティック・ウェブ ウェブの利便性を向上させるためのプロジェクト。XMLやRDFといったウェブ技術を利用し、各ウェブページを意味付けする(メタ情報を埋め込む)ことで、コンピューターが効率よく収集/分類できるようになる
世界は「バルカン化」の逆を目指す
こういう状況は、少しずつ変わりつつある。このコラムの第2回でも紹介したOpenIDを多くのサイトがサポートするようになり、ひとつのIDで複数のサイトにアクセスできるようになった。しかし人のリンクは、個々のSNSの中で閉じたままだった。
この人のリンクをオープンにしようという試みも出てきた。Googleの「オープンソーシャル」(OpenSocial)は、こうしたSNSを相互につなぐプラットフォームだ(関連記事)。すでにFacebookを除く主要なSNSが参加し、ほかのSNSとも友人を作ることができるようになっている。日本からもmixiが参入した。
もうひとつの動きは、電子メールのアドレス帳を共有しようという試みだ。これはまだ試行段階だが、Mozillaプロジェクトのメールソフト「Thunderbird」で提案されている。Netscapeの創業者、マーク・アンドリーセンは、メールの個人情報を相互に共有するツールを開発するNingというベンチャー企業を立ち上げた。
しかし日本の匿名性の強いウェブは、大きなハンディキャップを負う。最近のmixiのように匿名ベースになると、相手が何者か分からないので、情報の選別がしにくいからだ。実名で肩書きを明らかにすると、所属する会社などの目を意識せざるをえないので、ひとりの「個人」としてネットワークが組みにくくなってしまう。
「匿名の卑怯者」ばかりが集まる日本のウェブは、グローバルな人的ネットワークワークからも取り残されるのだろうか。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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