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教えて、大森望せんせい!

30代で始めるラノベ生活! まずはコレを読め!

2008年03月31日 18時27分更新

文● 大森 望 ●聞き手 編集部

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ブギーポップ以降でライトノベル世界がガラリと変わった


――というと、ライトノベルでも移り変わりみたいなところはあるんですか?

ブギーポップは笑わない

1998年に刊行された電撃文庫「ブギーポップは笑わない」。現在でも書店に並んでいることが多い

大森氏:現在の流れでは、1998年に上遠野浩平(かどのこうへい)の「ブギーポップは笑わない」が出てから明らかに変わりましたね。現在はブギーポップが塗り替えたライトノベル世界になっていて、これまでの軽い文章から、ある程度の格好良さが求められるようになっています。あと、ブギーポップっていうのは、文体とかだけじゃなくて、ストーリーの流れについてもリニアに繋がっていなくて時系列がバラしてあったりして、非常に技巧的なことをやっているんですよ。

 割と先鋭的なSFの影響を受けている作品なので、従来の「わかりやすければいいライトノベル」とは全然違うライトノベルなんです。でも、編集部がそれを主導しようとしたわけではなくて、出したら売れてしまった。そこからトレンドが変わってしまったというわけです。

 そういう、割とダイナミックな変化が起こるのがライトノベルなんですよ。その中でもブギーポップが一番大きかったのは、編集部が思っていたよりも「読者は分かりにくい話でも大丈夫だ」ということが分かったこと、先鋭的なスタイルでも受け入れられるようになったということですね。

 なので、ブギーポップ以降は「こういうものがライトノベルだ」というような、昔みたいなライトノベル性というものが見えにくくなっていますね。1980年代から90年代の前半は、1文1改行で、ページの下の方が白くて、「1冊20分で読めるようなモノがライトノベルです」と言っていればよかったんですけど、今はもう全然そうじゃなくなっている。

 例えば、1冊800ページもあるような重いものや、ひたすら鬱になるような暗い話とかもどんどん出版されている。ただ、それらが主流であるか、というと決してそうではないので、相対として「こういうものがライトノベル」というのは確かにある。でも、無視できないくらいには増えていますね。

――そういうのが受け入れられる土壌は出来上がってきていると。

大森氏:読者の主流は中学生くらいだし、読者の8割くらいはいわゆるライトノベルを求める層というのがいると思うんです。あと、1995年くらいまでは「評論家に褒められるようなものは売れない」という風潮がありました。ブギーポップ以降はそういうこともなくなってきましたね。

 そういう流れもあって、現在ではライトノベルレーベルで出たものが、普通のレーベルで出され直すこともよくありますね。例えば、富士見ミステリー文庫で出ていたものが、角川文庫で出されたりとか。


近年はすごい新人がやや足りない?


 ただ、ここ3~4年での、ライトノベル専門レーベルから出ている新人で言えば、谷川 流あるいは有川 浩(主な代表作「図書館戦争」シリーズ)から後は、ちょっと息切れ気味に見えますね。「このライトノベルがすごい!」でも、結局出てくるタイトルと言えば知っている有名どころしかないですよね。もちろんマニアックな読者で言えば、「あれがいい」「これがいい」というのはあると思うんですが。

イリヤの空、UFOの夏

電撃文庫「イリヤの空、UFOの夏」

 秋山瑞人(主な代表作「イリヤの空、UFOの夏 」)とか、古橋秀之(主な代表作「ブラックロッド」)など、ちょっと前に活躍したすごい作家っていうのはたくさんいるんですが、ライトノベルの現役読者っていうのは、過去作をほとんど読まないと思うんですよ。その場その場で出ている新刊だけを読むっていう状態なので、普通の書店ではバックナンバーは全然置いてないところがほとんどだと思います。

――その月に出た新刊を基本的に追っていると

 ライトノベル専門で読んでいる現役の中学生あたりの読者に関して言えばそうですね。なので、ライトノベルとして出版されている本の9割は、こういったメディアとかで紹介しなくても売れる作品なんですよ。新刊が出れば買うというサイクルの人が多いですから。

 ライトノベルのコア層である中学生も、3年経てば成長して考え方も変わったりしますよね。それこそ5年前の小学生のときに出た本とかは知らなかったりしますし、高校に入ったら「もうライトノベルは卒業」となったりとか。中学3年間でしか読まないと考えれば、1学期に1冊くらいのペースで出てくれないと、そもそも目に入らなかったりもする。なので、10年に1冊みたいなペースの作家はライトノベルではほぼ無理ですね。

 ただ、とみなが貴和の「EDGE」シリーズなんかは、7年かけて5冊で完結といったペースで出ていますが、これは非常に珍しい例。でも、そういうのは本来のライトノベル読者層ではないところから読まれている、ということにもなるんです。

EDGE

1999年から2006年の7年間で全5刊が発売された、とみなが貴和氏の講談社X文庫 ホワイトハート「EDGE」シリーズ

 ただ、今から読むような人でも既刊で気になるシリーズがあれば、Amazon.co.jpとかで新品として買えたりしますから、昔とはやはり状況が変わってきている。あと、5年前や10年前の作品でも書店の棚に置いてあるってことは、それだけ激戦の中を勝ち抜いた価値のあるものと言えるでしょう。

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