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JASRACシンポジウムで激論

「流通すれば儲かる」は幻想──ネットにテレビ番組が流れないワケ

2008年03月27日 11時22分更新

文● 広田稔(編集部)

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3)ネットでどうやってビジネスを成立させるか?


 ネットのコンテンツビジネスを成功させるために、何をすべきなのだろうか。各人の考えは少し異なるようだ。JASRACの常任理事である菅原瑞夫氏は、日本のコンテンツ配信で成功した少ない例である「着メロ」にヒントがあると言う。

菅原氏

JASRACの菅原氏

菅原氏 「着メロ」(の著作権使用料は統計を取り始めた99年から)3年間で20倍くらいになって、その後3年間で4分の1くらいに減っている。昔から申し上げていますが、この急激に上がったときにひとつのヒントがあると思う。

 ただそのときの単価は極めて小さい。小さい単価で、関係する権利者などと、(利益を分配する)合意をどう作っていくのか。そうしたビジネスの提案があって、かつ権利者側もトライアルを一緒にしないと、新しい市場はなかなかできない。


 砂川氏は、ネットに合う種類の番組は何なのかと問う。

砂川氏 テレビでも「見たいな」と思う番組はありますよね? その視聴者と番組をどうつなげていくかというビジネスは確かに成立する。

 もう少し議論が成熟してくると、「ネットにふさわしい種類はなんですか?」という議論になってくると思う。例えば、今、北京オリンピックの前だからといってアテネオリンピックの映像を流していますが、誰も見ないわけです。やっぱりスポーツは旬の世界。旅番組も、古い番組を流したら旅館がつぶれていたりする。昨日の天気予報を今日見たいと思う人もいない。

 堀氏は、コンテンツホルダーとしてビジネスモデルの提案がほしいと強調し、国外のマーケットに注目するという例を上げた。

堀氏 今、外のマーケットに行くとしたら、アジアしかない。日本が憧れられている間に行かないと。

 日本のテレビ番組は世界で規制が一番緩いし、作っている金額を考えると、表現力が一番豊かだし、技術も最高レベルだと思うんです。例えばアジア全域にポータルサイトを作って、各国語で動画配信したい。だからこの期間だけ権利の制限をやらせてくれよという話なら、僕らも飲むかもしれない。そのビジョンが何もないわけですよ。

 そうしたビジョンは、多分、この後ネットからもでてくると思う。例えば、先ほどの天気予報の話でも、昔の天気予報を30年分、100万で買ってきて、「私の生まれた日の天気」というサービスにするとか、そういう提案がほしい。

 川上氏は、お金を払うという行為の満足度について着目する。

川上氏 ネット上でどういう風にお金をとるかと考えたときに、ひとつ議論されていないテーマがあると前から考えています。それはユーザーの満足度の問題なんです。

 今、デジタルコンテンツで収入を得る場合は、基本的にDRM(デジタル著作権管理)を付けて、コピーに対して課金している。しかし、DRMが完璧だったらいいんですが、何らかの方法でユーザーはコピーを手に入れることができるんです。

 そうすると何が起こるかというと、今の中高生の友達の間では、どこかから(無料で)コピーを持ってきた人がヒーローになるんです。実際に高校生に聞いてみると、買った人は「負け組」だと言う。ネットを探しても見つからず、「負けた」場合に仕方なくお金を払って着うたなどを買う。

 昔はお金を払って満足していたじゃないですか。僕が子供の頃はCDやゲームソフトを買った人がヒーローで、「自分が買った」と言って友達に貸すことができたけど、デジタルの時代では、お金を払った人が負け組になる。このユーザー満足度の問題を解決しないと、デジタルで購入するという習慣がつかないと僕は思っています。

 プロテクトはできるだけかけずに権利を持っていれば、自分の購入したコンテンツをいろいろな場所で使える。そうした環境を築ければ、お金を払った人が勝ち組になれる。世界の中でその方向に進んでいるのはアップルだけです。

 満足度については構造的な欠陥があると思っています。解決のヒントになるのが、サーバー型のオンラインゲーム。例えば、アジアは違法ソフトが蔓延していてゲームソフトが売れないけど、中国ではサーバー型のオンラインゲームが成功している。サーバーの使用時に課金するのなら、ゲームデータはコピーできない。デジタルコンテンツも、サーバー上での権利に対して課金するのが重要なんだと思っています。

 岸氏は、「今はそれ単体では儲からないけど、研究開発費のような将来への投資」という考えを示す。

岸氏 個人的にネットのメディアがそれ単体で儲かるかどうかという問題は短期間では結論が出ないと思っている。

 音楽の例で言えば、英国のアーティスト(RADIOHEAD)が曲の価格をユーザーが決められるという実験をやっているが、それはライブで回収する仕組みになっている(関連記事)。音楽はネット上でどんどん流通させてプロモーション目的に使うという取り組みもある。

 テレビ局を見てみても、ネットだけで儲かっているところは欧米にもないはず。普通にやれば電波の方が広告料もケタが違うし儲かる。でもみんな一生懸命やっているのは、将来的にはデジタルネットワークが伸びるであろうと考えているからだ。これはある意味、研究開発投資に近いものがある。いろいろな練習をしておかないと、数年後に、ユーザーの視聴環境が変わったときに、変化に付いていけないかもしれない。


 ネットにコンテンツを流通させるには、ユーザーが納得してお金を払えるだけではなく、企業も納得してコンテンツを提供できるようなビジネスモデルの確立が不可欠だ。そういう意味では、現在は過渡期なのかもしれない。


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