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【SaaSトレンド・レポート】

「国策SaaS」は中小企業の救世主となるか?――SOABEX研究会の定例会から

2008年03月24日 22時38分更新

文● 小橋川誠己(アスキービジネス編集部)

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経産省が中小企業向けのSaaSプラットフォームを作る――。昨年、SaaSが注目を集める中で発表されたこのニュースは、業界内で話題をさらった。
3月19日、業界団体の「SOABEX研究会」が開いた第4回定例会のテーマは「政府の中小企業向けSaaSプロジェクトの狙い」。会場に駆けつけた多くのITベンダー関係者を前に語られた、プロジェクトの概要と課題とは。


目標は50万社、「ビジネスとして成立するプラットフォーム」を目指す


 2008年度から、中小企業を対象としたSaaS支援プロジェクトを走らせる経済産業省。3月19日、SOABEX研究会の第4回定例会でプロジェクトの概要を解説したのは、同省 商務情報政策局 情報処理振興課 課長補佐である安田 篤氏だ。

「国策SaaS」は中小企業の救世主となる か?――SOABEX...

経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 課長補佐 安田 篤氏

 安田氏の説明によると、経産省のSaaSプロジェクトの対象は従業員数20名以下の小規模事業所。経産省がSaaSのインフラとなるプラットフォームを構築し、その上で動作する業務アプリケーションを複数のアプリベンダーが提供する。各アプリはWebベースの統合ポータルから利用可能で、シングルサインオンやアプリ間のデータ連携も予定する。アプリのラインナップは、財務会計、給与計算、グループウェアなど。加えて、政府が推進する電子申告アプリ(e-Taxなど)も利用できるようにする計画だ。

 プロジェクトの期間は2年間。2008年度にまずプラットフォームの構築、アプリベンダーの募集を開始し、2009年度に稼動を開始する。目標は2年間で50万社の利用者獲得。「あくまでもビジネスとして成立することが前提。50万社あれば採算ベースに乗るはずだ」と安田氏は話す。

 そして2010年度には、プラットフォームの運営も民間に払い下げ、完全民営化された中小企業向け統合型SaaSが誕生する――これが、経産省が進めるプロジェクトの全貌だ。

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経済産業省が構築する中小企業向けSaaSプラットフォームのイメージ


「民間が取り組みにくい」領域をSaaSで支援


 だが、SaaSにはすでに多数のITベンダーが手を伸ばしてきている。複数のベンダーが提供する多種多様なアプリケーションを使えるようにする“プラットフォーム構想”も、米セールスフォース・ドットコムや富士通、KDDIなどが打ち出しており、経産省のプロジェクトは見方によっては「民業圧迫」とも言われかねない。そもそもこうした事業を経産省が手がける必要はあるのだろうか。

 この素朴な疑問に対して、安田氏は「マーケット」「電子申告」の2つのキーワードから、今回のプロジェクトが“民間が取り組みにくい領域”であることを強調する。

 1つ目のマーケットとは、そもそも20名以下の企業が導入しやすいサービスが現状ではほとんどない、ということ。「ユーザー企業にとっては価格が高すぎる一方、ベンダー側からすれば販管費などの問題から利益を上げにくい構造」(安田氏)のためだ。

 2つ目の電子申告については、国税庁を中心に利用率向上の施策を打ってはいるものの、いまだ広く普及しているとはいいがたい。「手間のかかる部分であり、なかなか民間ではやりづらい」(安田氏)。そこで、SaaSプラットフォーム上の財務アプリと連携する電子申告アプリを提供。利便性を上げることで、利用率を一気に高めようという狙いだ。


【次ページ】SaaSの“具体的なメリット”をどう伝えるか

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