ユーザー発の作品で「ニコニコ」できるようになった
── なぜこの段階で、キラーコンテンツでもある著作権侵害コンテンツを切ろうとしているのでしょうか?
津田 ドワンゴがどこまで本気で著作権侵害コンテンツの対策を行なおうと思っているのかは、まだ分からない部分はあります。それはともかく、ニコニコ動画の成長過程において、著作権侵害コンテンツやMADムービーのある種「副産物」として、ユーザー発のオリジナル作品が増えてきたことが影響しているでしょう。
端的な例で言えば「初音ミク」です(関連記事)。初めは初音ミクにありものの曲を歌わせていただけでしたが、今では自作の音楽をアップロードすれば、それに動画を付ける人が現れて、さらにその曲を歌う人まで出てくるいったような、お互いのクリエイティビティーを刺激しあうサイクルが構築されている。著作権的に問題のない完全にユーザー発の作品でも、ニコニコ動画内で人気を集めるものがたくさん出てきています。
そうした状況を踏まえてニワンゴは、「もうニコニコ動画にテレビ番組はなくてもいい」と考えた部分があるんじゃないでしょうか。著作権を侵害するテレビ番組やMADムービーがあればトラフィックは稼げますが、一方で動画を送信するためのコストまでかさんでしまうというデメリットもある。
ニコニコ動画の本質的な面白さは「見逃したテレビ番組が見られる」ところよりも、「何かをネタにしてみんなとダベる」とか、「お互いにものを創作し合う」といったもので、それがここ1年で急速に成長したということが、今回の発表につながっていると思います。
あとはドワンゴが上場企業なので、コンプライアンス(尊法遵守)を気にしなければならない。著作権侵害にきちんと対応していることを印象付けたい──。今回の発表からは、そんなドワンゴのしたたかさも垣間見えますね。
── ニコニコ動画の著作権侵害コンテンツが、逆に宣伝になっているという見方もありますが……
津田 ドワンゴの本音には「別に露出したくないなら、テレビ番組を削除してもいいですよ。それで困るのはテレビ局ですから」と思うところもあるかもしれませんね。
今後はニコニコ動画で番組を宣伝したいなら、公式動画を利用してもらって、それでも「全部消してほしい」という権利者にはできる範囲で対応していくことになると思います。
筆者紹介──津田大介
インターネットやビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、 CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」や「インターネット先進ユーザーの会」(MiAU)といった団体の発起人としても知られる。近著に、小寺信良氏との共著 で「CONTENT'S FUTURE」。自身のウェブサイトは「音楽配信メモ」。
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