月刊アスキー 2008年4月号掲載記事
上司や同僚と直接話をしないと仕事のミスにつながるとはわかっていても、忙しくなるとついついコミュニケーションがおろそかになってしまうもの。日立製作所とマサチューセッツ工科大学(MIT)は、多くの知識労働者が抱えるこの問題を解決すべく、共同研究を行っている。1月17日に東京・六本木で行われた「MITメディアLAB」では、両者の代表が最新の研究成果を発表した。
日立・中央研究所の矢野和男氏が提唱する「ビジネス顕微鏡」は、センサーを身に付けた人同士が、いつ、どこで、誰と、どのようなコミュニケーションをとったかに関するデータを取得。それを可視化することで「気付き」を与え、個人の成長、さらにはチームパフォーマンスの向上につなげるというものだ。データ分析や可視化、マネジメント分析に、MITのノウハウが生かされている。
日立とMITでは、カスタマーサポート、セールスサポート、銀行、病院などで実証実験を行ってきたほか、日立内でも昨年1月以降、100名規模の実験を実施。これまでに、数億パターンもの知識労働者の行動特性に関するデータを入手した。これらのデータを分析することで、生産性を上げるためのキーポイントが見つかると見込んでおり、2008年度のサービストライアル開始を目指して開発を進めている。
「普及のためには、人の生活や感情に与える影響を考慮しなければなりません」と、矢野氏は語る。「特定の人だけがデータを見られるような監視的な状態を作るのではなく、全員が全員の業務を見ることで、協力しやすい職場にすることへの理解が必要です」。
コミュニケーションの手段が増え、メールやチャットなどのログを残すことが当たり前になった現代、生身の人間の対面を探ることが、コミュニケーション不足を解消する糸口なのかもしれない。