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スタートは ×「技術」 ○「便利」の新無線規格

2008年03月24日 00時00分更新

文● 岡本善隆(編集部) 写真●小林 伸

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月刊アスキー 2008年4月号掲載記事

TransferJetで実際に通信

写真では空間を空けているが、基本的には何らかの機器同士を接触させて通信する。この接触させるというところが逆にキーなのだ。

 無線でのデータ通信は、物理的なケーブルが無いぶん、ユーザーにとっては便利なのだが、厄介事が少なくない。接続する前にIDとパスワードを入力したり、機器同士で認証が必要だったり……。これでは初心者のみならず「ケーブルで繋いだ方が手っ取り早い!」と考えてしまうのも自然である

 そんな既存技術への不満が出発点となり、開発者みずから「ライフスタイルを変える可能性がある技術だと考えている」(ソニー 情報技術研究所通信研究部 岩崎 潤氏)とする新しい無線規格が「TransferJet」である。この技術、ITにある程度の知識を持っている人だと、逆にどこが優れているの? と感じてしまうかもしれない。通信距離はわずか3センチ。実質的には通信したい機器同士を接触させる必要があるのだ。

 しかし、逆にこの部分がキモなのである。超近距離を前提にしているので、USB2.0以上の転送速度を持ちながら無線の出力は極めて微弱であり、他の無線機器と干渉を防ぐ処理を省ける。これなら機器はシンプル(低コスト)に作れ、しかも国ごとに異なる無線制度にも、ほとんど問題なく対応できる。また、超近距離でないと通信できないのなら、高度なセキュリティ機能の必要性は低い。そこでハード側のセキュリティ機能は最小限に留めることができ、ユーザーは機器同士をかざすだけという簡単な操作を実現できた。

 こんなある意味割り切った規格が生み出されたのは、開発のスタートが新技術ありきではなく、「家電メーカーとして、本当にユーザーに役立つインターフェイスは何かと考えた」(同統括部長 小高健太郎氏)という発想ゆえ。今回の取材時では、デジカメやムービーカムからパソコンにデータを転送するデモのほか、音楽の自動販売機やユーザーの携帯同士をタッチしてのデータ交換などがイメージとして挙げられた。「Felicaが普及したおかげで、“タッチ”することで何かが便利になるというのは理解された。今度は“タッチ”することが楽しいというジャンルを作っていきたい」(岩崎氏)という。実際の搭載製品は2009年度内には登場する予定とのこと。TransferJetによって、デジタル機器を通じた新しいコミュニケーションの形が生まれる時代は案外早そうだ。

左からソニー株式会社 情報技術研究所 通信研究部の小高健太郎氏、岩崎 潤氏

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