実用化に向けて発電効率を高める日々
現在、実用化できるレベルまで発電効率が高まった振動力発電は、発電素子と発電素子をつなぐ「振動板」による部分が大きいそうだ。それまでは、力が加わった圧電素子のみが発電する仕組みだったが、振動板によって1つの圧電素子に加わった力が振動として周りの圧電素子に伝わり、直接的に力が加わった以外の圧電素子も発電する仕組みになったのだ。それ以外にも、安定的な電力を確保するために充電回路が組み込まれていたり、発電素子の耐久性を高めるために変形を一定の範囲に留めるストッパーが取り付けられるなど、圧電効率を高める多くの工夫がされている。最近では、発電効率の高い圧電素子を作る研究もしているという。
「手探りな部分も多く、決してスムーズに研究が進んでいったわけではありませんが、1歩ずつ発電効率を高めていきました。その後、2006年にJRと共同で駅構内に発電床設置し、駅の利用者が歩く振動によって発電するという実験を行ないました。そして、体重が約60kgの人が1秒間に2歩ずつ歩くと、0.1~0.3Wの電力が発生するという結果が得たのです。今では、それよりも発電効率が高まっていますので、0.5Wくらいでしょうか。また、商用化に向けた開発も進めています。例えば、テレビのチャンネルを変えるときにボタンを押す行為が発電になる電池のいらないリモコンや、お歳よりや足の不自由な方用の杖で、地面の突くと光り、離すときも光るというものです」
現在、速水さんはSFC-IVを始め、慶應のOBの方や、弁理士など多くの組織や人の協力を得、メーカーとパートナーシップを結びながら実用化に向けた共同研究開発を着々と進めているそうだ。多くの協力者を得るには、技術の魅力も必要だが、その技術の先にあるビジョンや自分の夢を伝えることが大切だと速水さんは語る。まずは「応援したい」と思ってもらうことが、第一歩なようだ。最後に、今年京都議定書で第一約束期間がスタートし、日本は今後二酸化炭素の平均排出量削減の目標値を達成できると思うか、また、振動力発電はどのように貢献できるのか聞いた。
「結論から言うと、目標値は達成できると思います。そのためには使う人の意識改革が重要になると思っています。日本は世界的に省エネ技術が進んでいるのですが、それでも実際は、二酸化炭素は減るどころか年々増えている。それはなぜかというと、省エネが進む一方で使う機会が増えてしまっているからです。私が行なっている音力発電と振動力発電は電気を供給する発電機としてだけでなく、エネルギーやエコを考えるよいきっかけにもなると考えています。利用する側の意識が変わることで、京都議定書の数字を果たすことができることでしょう」
- ■取材協力
- 株式会社音力発電
- ※「振動力発電」「音力発電」「発電床」「発電下駄」は、株式会社音力発電の登録商標になります。
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