月刊アスキー 2008年3月号掲載記事
起業家と天文学とは、とても密接な関係にあるらしい。
鉄鋼王カーネギーはウィルソン山天文台に、ロックフェラー財団はパロマー天文台に資金援助して巨大な望遠鏡を作り、天文学の進歩に貢献した。こうして得られた近代の科学的宇宙観に基づいて、産業革命や民主主義は進展した・というのが、IT関連のシステム構築やコンサルを手がけるインターネット総合研究所(IRI)藤原 洋代表取締役所長の持論だ。
そして、そう唱える藤原氏の設立したナノオプトニクス研究所がいま、10億円近くを資金援助して、反射鏡の直径が3.8mという巨大な光学赤外線望遠鏡を作ろうとしている。
岡山県にナノオプトニクス研究所ほか3者※1が共同で建設するこの望遠鏡。完成すれば国内はもちろん、アジアでも最大となるが、巨大な反射鏡を製造するのは簡単ではない。
今回の場合、1枚鏡ではなく18枚に分割して製造する。従来は、分割した鏡を研磨剤で“磨いて”作っていた。だが磨く手法では、一説によると「1枚1年1億円」というくらい、コストと時間がかかるそうだ。
そこで今回は世界で初めて、鏡を砥石で“削って”作る。
岐阜県関市のナガセインテグレックスは、年商54億円、社員数約120名の中堅工作機械メーカーだが、ナノメートル(100万分の1ミリ)精度で蕫削る﨟という、世界でも希な超精密加工技術を持つ。その技術を活かして、同社は鏡を削る加工機を開発。磨く手法に比べて時間で10分の1、コストも半分以下で鏡を作れるという。
3.8m望遠鏡はこの加工機で反射鏡を削り、2011年の完成を目指す。そして、鏡を削る技術の用途はさらに広がる。
あの「ムーアの法則」で知られるインテル創業者ゴードン・ムーア氏の財団が2億ドルを出資したTMT計画※2など、現在、世界中に直径30m級望遠鏡の建設計画がある。反射鏡が30mにもなると、分割すれば数百枚になり、磨く手法では何年かかるかわからないため、削る技術は非常に有望だとか。望遠鏡だけでなく太陽光発電施設の反射鏡なども応用範囲という。
岐阜発の技術で削った鏡は、どんな未来を映すのか。
※1 京都大学大学院理学研究科宇宙物理学教室・附属天文台、名古屋大学大学院理学研究科光赤外線天文学研究室、国立天文台岡山天体物理観測所の3者。
※2 Thirty Meter Telescope Projectの略で、そのものズバリ30m望遠鏡計画だ。カリフォルニア工科大学などが中心となり、2016年にハワイもしくはチリに望遠鏡を建設する。