このページの本文へ

独自技術で岐阜から世界へ

超精密加工技術で目指すは“ムーアの鏡”

2008年02月14日 22時29分更新

文● 中西祥智(編集部) 写真●曽根田 元

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

月刊アスキー 2008年3月号掲載記事

砥石で削る

写真では静止して見えるが、高速回転する砥石で鏡のサンプルを削っている。“削る”というと表面が粗くなるように思えるけれど、その精度は30ナノメートルと、極めてツルツルなのだ。

起業家と天文学とは、とても密接な関係にあるらしい。

鉄鋼王カーネギーはウィルソン山天文台に、ロックフェラー財団はパロマー天文台に資金援助して巨大な望遠鏡を作り、天文学の進歩に貢献した。こうして得られた近代の科学的宇宙観に基づいて、産業革命や民主主義は進展した・というのが、IT関連のシステム構築やコンサルを手がけるインターネット総合研究所(IRI)藤原 洋代表取締役所長の持論だ。

IRI所長 藤原 洋氏

IRI所長 藤原 洋氏(左)に、大学で同窓だった京都大学大学院理学研究科附属天文台長の柴田一成教授(右)が30年ぶりに連絡したのが、今回の発端だったとか。

そして、そう唱える藤原氏の設立したナノオプトニクス研究所がいま、10億円近くを資金援助して、反射鏡の直径が3.8mという巨大な光学赤外線望遠鏡を作ろうとしている。

岡山県にナノオプトニクス研究所ほか3者※1が共同で建設するこの望遠鏡。完成すれば国内はもちろん、アジアでも最大となるが、巨大な反射鏡を製造するのは簡単ではない。

今回の場合、1枚鏡ではなく18枚に分割して製造する。従来は、分割した鏡を研磨剤で“磨いて”作っていた。だが磨く手法では、一説によると「1枚1年1億円」というくらい、コストと時間がかかるそうだ。

N2C-1300

ナガセインテグレックスが開発した、レンズ加工機「N2C-1300」。専用の建屋いっぱいに鎮座する巨大な工作機械だが、10ナノメートル単位で繊細に動く。

そこで今回は世界で初めて、鏡を砥石で“削って”作る。

岐阜県関市のナガセインテグレックスは、年商54億円、社員数約120名の中堅工作機械メーカーだが、ナノメートル(100万分の1ミリ)精度で蕫削る﨟という、世界でも希な超精密加工技術を持つ。その技術を活かして、同社は鏡を削る加工機を開発。磨く手法に比べて時間で10分の1、コストも半分以下で鏡を作れるという。

3.8m望遠鏡はこの加工機で反射鏡を削り、2011年の完成を目指す。そして、鏡を削る技術の用途はさらに広がる。

あの「ムーアの法則」で知られるインテル創業者ゴードン・ムーア氏の財団が2億ドルを出資したTMT計画※2など、現在、世界中に直径30m級望遠鏡の建設計画がある。反射鏡が30mにもなると、分割すれば数百枚になり、磨く手法では何年かかるかわからないため、削る技術は非常に有望だとか。望遠鏡だけでなく太陽光発電施設の反射鏡なども応用範囲という。

岐阜発の技術で削った鏡は、どんな未来を映すのか。

※1 京都大学大学院理学研究科宇宙物理学教室・附属天文台、名古屋大学大学院理学研究科光赤外線天文学研究室、国立天文台岡山天体物理観測所の3者。

※2 Thirty Meter Telescope Projectの略で、そのものズバリ30m望遠鏡計画だ。カリフォルニア工科大学などが中心となり、2016年にハワイもしくはチリに望遠鏡を建設する。

週刊アスキー最新号

編集部のお勧め

ASCII倶楽部

ASCII.jp Focus

MITテクノロジーレビュー

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード
ピックアップ

デジタル用語辞典

ASCII.jp RSS2.0 配信中