前例のない商品に否定的な意見もあった……
インパクトのあるアライアンス商品の企画は通ったが、実務的な問題でクリアしなければならないこともある。
「社内的な問題で、開発とは別に営業に関わる調達の会議というのがあり、そこでは『いくらの値段で、何台売れるのか』をプレゼンしないといけない。営業サイドでは『売れるかどうか疑問だ』という、否定的な意見も出ました。また、物流の問題もありました。充電台は組み立て式で、バラして箱詰めされているんですが、普通の913SHの9倍の体積がある。1万台だったら、倉庫には9万台分のスペースが必要になるわけです。なので、倉庫に持っていったら、ものすごく怒られましたね。『ただでさえ、うちの倉庫はギリギリなのに』と」(由本さん)
こうしたハードルをクリアしなければ、いくら面白い企画商品でクオリティが高くても、世に出ることはない。しかもこの手の商品は、ソフトバンクモバイルでも初めてだというから、参考にすべき前例もない。解決の糸口は、この「企画だからこそ」というところにあった。
「営業畑の上層部にガンダム好きの人がいて、ゴーサインを出す後押しをしてくれました。物流にしても、30代、40代のガンダムファンの人が理解を示してくれて、納品の時期をずらすとか、パレットの形を変えればいいかも知れないなどのアイデアを出してくれました。『ガンダム』の価値を分かってくれる人が手助けをしてくれたのが、この企画を形にできた一因だと思います」(吉田さん)
幅広いファンを持つガンダムという素材のよさに恵まれたこともあるが、それ以上にファンを納得させるだけの魅力を持った商品に仕上げていったのが功を奏した。このケータイには、音源はもちろん、電池残量などのアイコン類までガンダムの世界観を持ち込んでいる。ボディにはシャアの軍籍番号や、劇中の設定にある架空のメーカーであるジオニック社のロゴまで入っている。ここまでやられたら、ファンはうならざるを得ないだろう。
「確かにガンダムによって人と人が結ばれた面もあります。しかし、何よりも中途半端なものにしなかったのがよかったと思います。開発途中で出た案のように、置きやすいだろうからと頭を半分に切ったり、シャアの機体らしい色合いを付けてそれでOKを出したりしていたら『これ、売り出す価値あるの?』と突っ込まれたときに、説得できなかったでしょうね」(大道さん)
次の企画商品については?
913SHを選んだ理由について横田さんは、端末は別の機種を採用する案もあったと語る。フルフェイス液晶というギミックの先進性から、この液晶なら「光って動く目」の迫力が伝わるだろうと判断したのが、選択の決め手となった。次々に新しい機種や機能が出てくるケータイの企画商品の場合、時間的な問題もある。
「2007年11月くらいの発売を考えていました。クリスマスシーズンに間に合うタイミングということと、913SH自体が6月の商品なので、あまり月日が経つとケータイ自体の先進性が失われてしまいます。『シャア専用ケータイ』は、メロディーや効果音、アイコンなどを機種オリジナルのものにしていることもあり、納期が短かく、製作会社には頑張ってもらいました」(横田さん)
こうしてできあがったシャア専用ケータイは、発表されるとすぐに瞬く間に話題となり、ネット予約では買えない人が続出するほどのヒットとなった。購入者のなかには、もったいなくてまだ開封していないという人もいるという話だ。これだけの商品を生み出したとなると、次のラインアップを気にせずにはいられない。
「今回は初めての試みだったことで、新たに考えなければならない問題が多くありました。次の商品を企画するという点でも、これまでになかった悩みが出てくるでしょう。たとえば、シャア専用ケータイをここまで作りこんでしまったからには、次作にも同等のクオリティが求められるでしょうし、すぐに次の企画商品を作ってしまうことで、今回買った人が『もう少し待てばよかった』などと思ってしまってもいけない。クオリティやタイミングなど、ユーザーの視点に立って企画を立てていかなければならないと思います」(大道さん)
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