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石井裕の“デジタルの感触” 第25回

石井裕の“デジタルの感触”

切り捨てることの対価

2008年01月06日 17時11分更新

文● 石井裕(MITメディア・ラボ教授)

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慣れ親しんだツールとの別れ


 ところで最近、MITが電子メールソフト「Eudora」のサポートを打ち切ると宣言した。大学が提供するサポートを期待するのであれば、これからは、アップルのMailか「Microsoft Outlook」、「Mozilla Thunderbird」のどれかを使うようにとのお達しが届いた。Macユーザーの場合、MailかThunderbird、あるいはいっそのことGmailのようなウェブメールを使うしかないようだ。もちろん、OS 9用ソフトのOutlookは論外である。

 電子メールソフトは、おそらくウェブブラウザーやカレンダーソフトと並び、日常のコンピューター使用時間のかなりの部分を占める、もっとも使い込んでいるソフトなのだ。すでに自分の仕事のやり方がEudoraの機能やインターフェースと深く結びついているため、メーラーのスイッチは容易ではない。機能的にはMailやThunderbirdのほうが優れている部分も多いが、Eudoraは私の心や体と一体化した情報コミュニケーションツールとなっている。そのような存在であるEudoraとの別れは、予想以上につらいものになるだろう。

 使い慣れたツールは人間の思考方法と一緒に進化する。そして、最後に思考の一部となる。ツールが提供するデータモデルとユーザーインターフェースは、それがそのまま情報世界を私たちがどうとらえるのかという見方を規定してしまう。これからも、Macの世界で洗練されよいツールとたくさん出会い、情報世界を美しく見せてくれるといいのだが。

(MacPeople 2007年7月号より転載)


筆者紹介─石井裕


著者近影

米マサチューセッツ工科大学メディア・ラボ教授。人とデジタル情報、物理環境のシームレスなインターフェースを探求する「Tangible Media Group」を設立・指導するとともに、学内最大のコンソーシアム「Things That Think」の共同ディレクターを務める。'01年には日本人として初めてメディア・ラボの「テニュア」を取得。'06年「CHI Academy」選出。「人生の9割が詰まった」というPowerBook G4を片手に、世界中をエネルギッシュに飛び回る。



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