ISPからサービス会社への転換を図る両社
ニフティとNECビッグローブという、これまでどちらかと言えば堅いイメージを持っていた両社がオタクコンテンツやWeb 2.0系サービスに傾倒しているのは、どういった事情があったのだろうか。
それは、ISPとして会員数の増加があまり見込めなくなってきたことが背景にある。ブロードバンドという言葉が当たり前になった現在、すでに加入者数は頭打ちになってきており、付加価値の高いFTTHなどに注力したとしてもISP事業として十分な収益をあげることが困難になってきているのだ。
このことは当のISP自身も十分自覚しており、NECビッグローブは11月29日に開いた経営説明会にて、今後ISP事業での収益増加はあまり見込めないという経営の見通しを述べ、今後はほかの分野へも注力していくことを表明している。ニフティも同様の経営展望を持っており、ある意味ギリギリ危ういところを狙った「ニフニフ動画」や「y or n」動画の公開などは、新分野への進出を世の中にアピールするための方法だったとも言える。
特定セグメントを狙うBIGLOBE
そして、その今後注力していく新しい方向性のひとつがオタクコンテンツだったのだろう。しかし、両社のサービスを見てみると、同じようにインターネットに親和性の高いオタクユーザー向けのコンテンツを手がけているようでいて、面白い差異があるのが見えてくる。
例えば、無料動画配信サイト「BIGLOBEストリーム」では、マニアが多いことで知られる、ジェネシスやEL&Pといった往年のプログレッシブ・ロックの動画配信などを行なっており、これらはオタク世代よりももう少し上の団塊世代が主要ターゲットと推測される。
いまやどこのサービスでも団塊世代の取り込みは重要テーマの1つだが、より細かいセグメントをターゲットにしているところが非常に戦略的だ。セグメントを明確にするという同様の方針が、女性をターゲットにしてルイヴィトンのブランドカタログなどを配布している「BIGLOBEケータイ書店」にも見られる。BIGLOBEはコンテンツの種類が非常に多いことが特徴だが、小さい層を狙ったコンテンツが増えていくと、オタクやマニアの拠り所として存在感を発揮できるかもしれない。
ヘビーなウェブユーザー狙いの@nifty
一方の@niftyは、ヘビーなウェブユーザーを狙ったサービスが目立つ。ブログに貼り付けて訪問ユーザーにアンケートを行なえる@nifty投票や、ユーザーが作った質問に答えることでプロフィールを制作する「アバウトミー」、など、コミュニケーションを促進するサービスが多いようだ。
中でも、自分が過ごした時間(タイムライン)を記録して共有する「@nifty timeline」や、自分が面白いと思ったニュースを共有する「@nifty トピックイット」など、いわゆるソーシャル系のサービスが多いのも特徴だ。@niftyはココログでブログブームを先導した実績があるだけに、ネット上のコミュニケーションツールに力を入れる路線なのだろう。
携帯向けサービスの拡充も両者に共通した戦略だ。
パソコンとの併用が前提のサービスだけでなく、ケータイ向け無料メーリングリストサービス「プリメ」(@nifty)や、画面のデコレーションが可能なケータイ向け検索サービス「デコサーチ」(BIGLOBE)、BIGLOBEケータイ書店などの、携帯だけしか使わないユーザーをターゲットにしたサービスが多く目に付くようになった。本来ISPの事業としては、携帯向けサービスは専門外だったことを考えると、パソコンに比べて課金収益が期待できる携帯ユーザー層をなんとか取り込みたいという意図が伺える。
2008年もユーザーを熱狂させるサービスを!
実を言えば、新しいコンテンツやサービスの開発に取り組んでいるISPは、ニフティやNECビッグローブだけではないのだが、特に先鋭的な例としてこの2社は今年特に目立つ存在だった。
今後、ISP間の会員獲得競争がさらに厳しくなるにつれて、各社とも必死になって新しいサービスを開発してくるだろう。「ニコニコ動画」や「初音ミク」の成功を目の当たりにして、オタク層やネットのコアユーザー層が持つ爆発的なパワーを無視できなくなったISPらが次々とオタクコンテンツの開発に乗り出したのが2007年だった。来年はそれらの中から、ニコニコ動画のようにユーザーが熱狂するサービスが生まれることを期待したい。
【コラム】筆者のお勧めサービス
年末というのは仕事以外にも色々と用事が入ってくる時期だ。筆者は故あって知人にランチをおごる約束をしているのだが、指定された路線ではあまり店を知らないので困っていたところに見つけたのがBIGLOBEの「ウェブリマップ」だ。
これは、Googleマップ上にブログで書かれたクチコミ情報を表示してくれるというもの。グルメ情報サイトを使うのもいいが、キーワード検索ではなく、地図のように視覚的なものを使って目当ての店の情報を探すのが、なんとなくこの辺りでいい店無いかなという時には合っているような気がする。
インターフェースも使いやすくて、Web 2.0系サービスをよく研究しているのがわかる。現在はウェブリマップを貼り付けているブログしか表示してくれないようだが、ブログやグルメ情報サイトなどのサービスに投稿された情報もうまく表示できるようになると面白いのではないかと思う。