アプリケーションの起動とウィンドウ管理機能の変遷
ハードディスクを装備していなかった初期のMacでは、基本的に1枚のフロッピーに1つのソフトとそのドキュメントファイルを入れ、作業ごとに起動するフロッピーを入れ替えて使っていた。今から考えれば、1つのソフトが1つのOSのようなものだったと言える。MacのGUIの原点が、基本的にそうしたミニマムな環境にあったことは、心の片隅にでも記憶しておく価値があるだろう。
そのような環境では、特にランチャーなどが必要ないのは明白だ。フロッピーのウィンドウを開けば、これから起動するソフトと、そのドキュメントのアイコンが必ず現れるのだから。そうした事情から、Macではランチャーやソフトの切り替え機能の発達は、多少遅れ気味だった。
それに対して、実際のユーザーがほとんどいなかった初期のウィンドウズは別として、実用的なWindows 3.1が開発された頃は、すでにPCがハードディスクを備えるのは一般的となっていた。従ってWindows 95はもちろん、3.1でもGUIはハードディスクの存在を前提として設計されていた。そのため、1台のディスクにさまざまなソフトと、そのドキュメントを混在して記録し、その中から目的のものをすばやく起動したり、起動した複数のソフトを切り替えるための機能の必要性も最初から意識して設計されていた。そしてそこには、そのままでは複雑なものをユーザーにはなるべくシンプルなものに見せるための、仮想化がすでに導入されていたのだ。
Windowsが、伝統的にMacよりもずっと仮想的な環境を実現しているのもそのためだ。例えば95以降に見られる「インターネット」というデスクトップ上のアイコンは、ダブルクリックすることで「Internet Explorer」(IE)を起動する。しかしそれは、IE本体でもなければ、そのエイリアス(ウィンドウズでは「ショートカット」と呼ぶ)でもない。そのアイコンからは、右ボタンクリックによってインターネット接続に関する設定ウィンドウを即座に開くこともできる。これはインターネット全般を代表する仮想オブジェクトなのだ。こうしたWindowsの仮想化傾向は、デスクトップをルート(起点)とするさまざまなオブジェクトの階層構造にも色濃く反映されている。
Macで一般のアプリケーションソフトに対するランチャーの必要性が意識されたのはSystem 7.5のころからで、その名もずばり「ランチャー」が装備された。これはいわば一般のウィンドウに、1クリックでソフトを起動するアイコンを並べただけの原始的なものだった。OS 9のころになると、アイコンをボタン形式で表示するFinderのウィンドウも、ランチャーの役割を果たすようになった。OS 9には、タブでアイコンを分類する機能を備えた独立したランチャーも加わったが、基本的な使い勝手では大差がなかった。また一般のウィンドウ自体がタブ化する機能を備えるなど、今日のDockにつながるような機能も導入された。ただし、OS 9までは、ソフトの切り替えにはメニューバーに設けた専用のメニューを使う必要があるなど、必要とされる機能がバラバラに発達した感があった。そうした機能の統合は、OS Xによってすべてが見直され、刷新されるのを待たなければならなかった。
Mac OS
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| System 7.5に標準装備された「ランチャー」は、DA(デスクアクセサリ)として実装されていた。ソフトやドキュメントを登録し、即座に開くこともできた |
![]() | OS 9の「ボタン」表示のFinderは、それだけでもランチャーとして使うことができた。アイコンの1クリックで開くのはFinderとして異端だ |
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| OS 9は「ポップアップウィンドウ」というユニークな機能も導入した。ウィンドウをタブ化して、デスクトップの外側に隠しておける機能で、Dockの「自動的に隠す」に近い |
![]() | 起動している複数のソフトは、OS 9の「アプリケーション」メニューで切り替えることができる。このメニューの機能もDockに統合された |
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Windows
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| Windowsのソフトは、最初から複数のファイルで構成されているのが当たり前だった。そのため、それを仮想化して1つのアイコンで表す仕組みやランチャーが不可欠だった |
![]() | Windowsの仮想化主義は、単なる「ショートカット」とは異なる、複数の機能を担ったオブジェクトとしてのアイコンを生み出した |
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![]() | Windowsには、ディスクの中のファイル/フォルダー構造とは独立した、デスクトップをルートとする独自の仮想オブジェクトの階層構造がある |
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(MacPeople 2007年12月号より転載)
筆者紹介─柴田文彦
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MacPeopleをはじめとする各種コンピューター誌に、テクノロジーやプログラミング、ユーザビリティー関連の記事を寄稿するフリーライター。大手事務機器メーカーでの研究・開発職を経て1999年に独立。「Mac OS進化の系譜」(アスキー刊)、「レボリューション・イン・ザ・バレー」(オライリー・ジャパン刊)など著書・訳書も多い。また録音エンジニアとしても活動しており、バッハカンタータCDの制作にも携わっている。
















