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【著者インタビュー】元国連事務次長 明石 康 氏

『国際連合 軌跡と展望』

2007年12月19日 00時00分更新

文● 清水真砂 写真●曽根田 元

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月刊アスキー 2007年3月号掲載記事

―― 明石さんの『国際連合』といえば、かつて大ベストセラーとなった作品です。今回、40年ぶりに全面刷新されたきっかけは何だったのでしょう。

明石 康 氏

元国連事務次長 明石 康 氏

今年は日本の国連加盟50周年の節目の年です。日本が国連常任理事国になる可能性なども論じられるようになりました。一方、国連は人々の生活から縁遠い存在として受け止められがちです。

戦争や平和は人々が考えるよりずっと身近で切実な問題です。国際問題に接する上で知っておくべきことを解説してみようと考えました。

40年前の本は、できるだけ客観的に書くことに努めました。しかし、カンボジアや旧ユーゴでは私自身が当事者です。学問的な姿勢はそのままですが、今回は自分の意見を入れた形で執筆しています。

―― この本の中では歴代事務総長のパーソナリティについても触れています。

私は歴代事務総長を間近に見てきています。ブトロス・ガリはとても難しい人でした(笑)。ですが、彼は一度納得すると最後まで私を支持してくれました。アナンは有能で、とてもやさしい人物です。反面、人事では……(笑)。

国際政治も生身の人間が外交の現場で悩み、考え、人と人とがお互いやりあって、失敗もあれば、成功もある。とても人間くさい世界なのです。

国連にも変わった部分と変わらなかった部分があります。例えば、あくまでも加盟国政府間の機構であること、こういった原則は変わりません。しかし、人権や環境といった問題の扱いに関しては大きく変わっています。

NGOや企業といった存在も重要になってきています。私自身、国連生活の中で「これしかできないのか」「どうして理解されないのか」と感じたことがあります。また、アメリカと国連の愛憎半ばの関係などもあります。この本の中で、国連の実情をちゃんと書くことに努めました。

―― 「静かな外交」の必要性を訴えていますね。

「マイクロフォン外交」と呼ばれる外交手法があります。国際会議などの場で演説し、支持を受ける。こうした手法は一見オープンなやり方に見えますが、本当の外交とは、小さな誰も知らないところで行われるものです。

国際外交において重要なことは、相手の本音を聞き、こちらの意図を正確に伝えること。それには担当者間の静かな探りあいの場が必要となります。

―― 「第4世代PKO」という新たなPKOのあり方を提唱されています。

冷戦が終わり、世界が希望に満ちた時期がありました。しかし、ソマリア、あるいはルワンダでの紛争において、PKO活動は大変な困難に直面しました。

私自身が指揮した旧ユーゴPKOに関して言えば、任務のあいまいさ、民族紛争の激しさ、大国がとった態度の違い、そういったものによって挫折を余儀なくされ、NATO軍が投入される事態となりました。

昨年、一昨年と旧ユーゴの地へ足を踏み入れました。戦争行為はなくなったものの、平和はまだ来ていません。あれから15年にもなりますが、民族間の相互不信はいまだに残ったままです。真の平和には時間も、いくつかのステップも必要です。大変な苦労を伴うものなのです。

それを実現するためには、PKOも強力で、よく装備され、訓練した軍隊でなければならないということがわかってきました。21世紀になってから、装備その他において以前より優れたPKOがコンゴやスーダンにおいて展開しています。

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