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柿崎俊道の「海外アニメ小話」

「グレンラガン」「アイシールド21」──日本のアニメはベトナムでも作られていたっ!!

2007年12月18日 09時00分更新

文● 柿崎俊道

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下請けを任せられる3つの条件


 アニメの下請け会社を海外に作る場合、賃金さえ安ければどこの国でもいいというわけではない。工藤さんは、賃金に加えて、インフラ、教育水準という3つの条件がそろう必要があるという。

 「インフラについては、光ファイバーが引いてあることが必須ですね。サーバーを介して、日本からは動画の設計図となる『原画』をスキャニングして送りますし、下請け先からはでき上がったアニメの素材を送ってもらいます。そのやり取りにスピードが要求されるので、光ファイバーが必要になるんです」

 光ファイバーを完備しているということは電気、水道、ガスなどライフラインが満足行くレベルであることは自明の理である。

 「あとは国民の教育水準が高くて、ある程度、アニメのセンスを共有できることも大切です」

 ベトナムではそう多くはないものの、コスプレイベントを開くほどの意欲があるアニメファンはいる。スタジオキャッツは、そうした若者の中から、絵が描ける人材を中心にアニメーターを雇っている。その数、60名。

 黙々と仕事に集中するというよりは、仕事中も椅子を寄せて気軽に相談したり、互いの仕事を見せ合ったりと和気あいあいとした学校のサークル活動のような雰囲気。それもそのはず。スタッフは全員若い。平均年齢は20代前半で、最年少は17歳の少女だそうだ。

陶器工場を改装したという広いスタジオでは、ベトナムの若者たちが動画机や仕上げ用のパソコンに向かう

グレンラガンの資料

スタジオで見つけた「天元突破グレンラガン」の制作資料

ベトナムのアニメーター事情


 ベトナム国内で放送されている日本のアニメは少ないし、ホーチミン市の本屋を覗いても、置いてあるマンガは「ドラえもん」くらい。海賊版で手に入るとしても、そこまでしてアニメを見ようとするマニアはそれほど多くない。

 そんなベトナムでアニメーターを採用するのは、一筋縄では行かなかったようだ。その苦労についても工藤さんは語ってくれた。

 「最初はホーチミン美術大学に部屋を借りて、アニメーター養成講座を開きました。1年間、日本のアニメの描き方を学んでもらった上で、希望者にベトナムスタジオに入社させたんです」

 美大卒業生だから、デッサンの技術はしっかりしているし、センスもある。そこへアニメのノウハウが身に付かせれば鬼に金棒である。だが、これが大失敗だった。

 「美大に入るようなベトナムの若者は裕福な家庭の出身者が多いんです。仕事をしなくても暮らしていけるような人ばかりなので、根気のいる仕事に向いていないんですね。卒業生たちを雇ったのですが、今年の春までに全員やめてしまいました(笑)」

 そこで工藤さんは方針を変更し、テクニックやセンスよりも「日本のアニメが好き」という人材を探すようになったという。


(次ページに続く)

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