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エンジニア進化論 第3回

第3回 しっかり稼げてヤリガイあり~新インクリメンタル型開発~

2007年11月30日 11時45分更新

文● 中山康照

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 現代の日本おけるシステム開発では、その開発費用に関していまだに算出方法に曖昧なところが多く、しかもクライアントが期待している効果との不一致も存在します。仕事を発注する立場からすれば、その根拠がよくわからない費用は不安を招くものであり、開発する側にとっても、中、長期的に考えると、その曖昧さは自分たちの首をしめる原因になります。なぜなら費用に対する減額圧力が日常化する中で、開発業者同士のチキンレースのようなダンピング競争を招いているからです。

 そこで、対策の1つとしてお薦めするのが、小さく始めるインクリメンタル型の開発です。システム全体をパーツごとに分割して、段階的に開発・追加していく開発手法としてインクリメンタル型は世に広く利用されていますが、ここではもう少し広い意味合いでの開発のことを意図します。つまり、スタート時に小さな成果物を作成し、それを運用しながら機能付加などを実施、課題の解決を試みながら開発を繰り返す手法のことです。そしてこの手法では、最初の成果物はなるべく必要最低限の機能に留めて開発するということがポイントとなります。

 現在、システムまで含めたWebサイトの開発が数多く行なわれるようになりました。Webサイトの数はインターネットの黎明期から比べれば隔世の感でしょう。たとえば、このWebサイトの開発には、インクリメンタル型の開発は向いていると言えます。Webサイト開発の多くは、実際にそのWebサイトが大きく育つかどうかは運用してみなければわからないものです。その中で最初から予算をかけていては、発注者側、開発側ともに非常にリスクが高くつきます。この点、ユーザーの反応を確認しながらWebサイトの需要に合わせていけるインクリメンタル型の開発はメリットがあると言えるでしょう。

 さらに、受託案件(顧客からの特注案件)の開発を手がけていている多くの開発会社では、受託案件に対する非常に強い価格下落の圧力から、利益率の低下や繁閑期の波などに苦しんでいるでしょう。それなら、受託開発以外の収益の上げ方も積極的に考えてもいいのではないでしょうか。その鍵となるのもインクリメンタル型の開発なのです。

 前述したように、小さく始めるということは、それだけ時間や費用などのリソースを省きます。それは開発者にとっては面白みが欠けるように思えるかもしれませんが、実はそうではありません。一般的な受託開発では、一度納品してしまえばそれで終了です。その後のWebサイト運用などに関しては、普通はタッチしません。しかし、インクリメンタル型の開発では、Webサイトオープン後も顧客のパートナーとしてWebサイトを「育てる」ことをします。日々、Webサイトの目的にそった成果の測定を行ない、顧客とともに開発側の視点に立ってWebサイトを育てていくことが可能なのです。

 これは、顧客との関係が納品によって終わるのではなく、Webサイトの成長とともにあり続けるということになる──顧客ロイヤリティの向上──につながります。また、Webサイトを「育てた」という実績は新規の案件を確保する上でも大きな強みになります。作りっぱなしで「はい、さようなら」という開発会社と、オープン後もWebサイトを一緒に盛り上げてくれる開発会社、受注側は選択に迷うでしょうか。このように顧客と良好な関係が築けるようになるため、インクリメンタル型の開発は収益の安定や新規案件の獲得に多く寄与します。

 プロジェクト単位で動き、ある程度の始まりと終わりを想定するような金融などの大規模案件には向かないものの、必要なものを必要なだけ開発し、顧客とともに育てていくインクリメンタル型の開発。駄目なものを早めに切ることも行ないやすいく、リスクも低い。とても効率的な開発方法と言えるでしょう。

Illustration:Aiko Yamamoto

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