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石井裕の“デジタルの感触” 第19回

石井裕の“デジタルの感触”

東京のスピード、ネットのスピード

2007年11月24日 22時59分更新

文● 石井裕(MITメディア・ラボ教授)

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不確定性が引き起こすフラストレーション


 人々が移動するスピードも、情報が流れるスピードも、ひたすら加速していく現在、人々はますますこらえ性がなり、ちょっとした「遅延」やいつ到着するかわからないといった「不確定性」に極めて敏感に反応する。無論、ネガティブな反応だ。

 高速道路の渋滞につかまり、いつになったら目的地に着けるかわからない状況には想像を絶する心的ストレスがある。まして自分で車を運転していたのでは、その間本を読むことも、まともにモノを考えることも不可能である。そこにはただストレスにさらされるだけの、むなしい時間が横たわっている。

 ところで最近、階数表示を備えていない高層ビルのエレベーターが増えている。上下を示すランプは付いており、次に上/下に向かうエレベーターはどれかという情報を伝えてくれる。これは一見シンプルなインターフェースのようだが、人間の心理からすると極めて不親切かつフラストレーションが募るインターフェースではないかと思う。

 階数表示があれば、それぞれのエレベーターが今どこに来ていてどちらに向かっているのかがわかり、あとどのくらいで到着するか大まかな予測を立てられる。しかし階数表示がないと、突然のチャイムとともにドアが開くのをただひたすら待つしかない。あまり忍耐強くない筆者にとっては、この時間が苦痛でしかない。特に階段という代替移動手段がある場合には、どのくらいの時間と確率でエレベーターがやって来るのか予測する手がかりすら与えられていない状況が我慢ならない。階段を使うかエレベーターを待つのかという判断を主体的に下すための基礎データが提供されない。不親切極まりない。


(次ページに続く)

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