月刊アスキー 2008年1月号掲載記事
とにかくスゴい兄弟だ。
弟は大ヒット映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』のVFXスーパーバイザーとして、2007年のアカデミー視覚効果賞を受賞したジョン・ノール。兄はかの「Adobe Photoshop」生みの親、トーマス・ノールである。
子どものころの2人は、模型作りやストップモーションフィルムに興味を持ち、共通の趣味の写真では、自宅の暗室にこもってはフィルムを現像していた。「爆発が起きたこともあったね」(トーマス)。その後、趣味が兄弟の人生とVFXの歴史を切り開くことになる。
ジョンは南カリフォルニア大学で映画製作を学んだあと、特殊効果の製作会社であるILM(インダストリアル・ライト・アンド・マジック)に入社。トーマスは高校時代にプログラミングに興味を持ち、フリーで仕事を始めると、ミシガン大学、大学院に進学後もその仕事を続けた。
ILMでモーション・コントロールを担当していたジョンは、仕事に行き詰まるとよく兄に相談を持ちかけたという。「トムはいつも素晴らしいソリューションを作ってくれました」(ジョン)。「最初の答えはいつも『無理』。でも、しばらく経つといいアイデアが思い浮かぶんです」(トーマス)。こうした兄弟のやり取りの中で生まれたツールセットがアドビ システムズの共同創設者であるジョン・ワーノックに理解され、1989年、「Adobe Photoshop」という歴史的ソフトに結実した。
その後、「スター・ウォーズ エピソードI~III」などのVFX作品を次々と世に送り出すジョン、アドビ システムズで開発を続けるトーマスと2人の道は分かれた。だが、いまでもPhotoshopが2人の間をつないでいる。ジョンは「大好きなものを選べば、きっと実になる」と語った。