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角川グループがビットトレントに約10億円出資

ついに日の目を見る P2Pを用いたコンテンツ配信

2007年11月24日 00時00分更新

文● 岡本善隆(編集部) 撮影●小林 伸

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月刊アスキー 2008年1月号掲載記事

ビットトレント関係図

ユーザー同士でファイルを交換するのみの純粋なP2Pとは異なり、ビットトレントではどのマシンにどのファイルがあるか監視しているので、配布の停止などの管理機能も提供できる。

 インターネットを利用した高画質の映像配信やゲームの体験版配布ではギガバイト単位のファイル転送が必要になる。安価な光回線が普及した日本のユーザーにとって、このような回線の利用はコストがかからない配布方法に感じるかもしれないが、サービス提供者にとっての事情はまったく異なる。

BitTorrent経営陣

手前がビットトレントの開発者、創業者のブラム・コーエン(Bram Cohen)氏。ハッカー文化的な空気を持つ技術者だが、現在はパズル制作にハマっているらしく、今回の来日時はまず御徒町のパズル専門店に駆けつけたとか。後は左から日本法人社長の脇山弘敏氏、共同創業者のアシュウィン・ナビン氏。

 現在大規模なネット配信では、CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)と呼ばれるサービスを提供する、専門企業に委託するのが一般的。アカマイに代表されるこれらの企業は配信用のサーバを世界中に分散し、大量のアクセスが同時に集中しても対応できる高度なシステムを構築している。ただ、その費用は小さくない。DVD1枚分のデータ配信に、実はメディア1枚の製造より、高いコストになる試算もあるという。デジタル放送を見ているような利用者に有料の映像配信を始めるなら高画質な映像が必要だが、画質を上げると「高コスト=高料金」になり、マーケットを立ち上げにくいというジレンマに陥いるのだ。

 そんな状況を覆す可能性を持つのが、P2P技術をベースにしたビットトレント(BitTorrent)である。ビットトレントではファイルの断片のみを一部のマシンにコピー。残りのデータはユーザーのマシン同士で交換し合って補完する。中央のサーバはその状況を監視し、どの断片がどのマシンにあるかの情報を伝えるだけなので、データ転送量は小さくなり、回線やサーバのコストが抑えられる。

 元々ビットトレントはブラム・コーエン氏が自宅で開発し、オンライン上で配布したソフトで、この技術に目を付けたメンバーとと もに同名企業を創業した。アメリカでは大手映画会社と提携し、映画が5ドル程度で観られる配信サービスを展開しているが、基本は 技術を提供する企業。国内では動画配信のインフラ提供で実績のあるJストリームと協業し、CDNと組み合わせた低コストのインフラ提供を計画する。また、角川グループはビットトレントに約10億円を出資するとともに、独自の映像配信サービスを2008年に開始することを発表。DVDや放送などに代わりえる、自社コンテンツを配信する新しいメディアとして期待を寄せていると考えられる。

 日本ではP2Pイコール「ユーザーが不法にファイルを交換するための道具」という印象があるが、ブラム・コーエン氏が「ビットト レントは、ユーザーの高速回線が安価で、サーバのホスティングが高価な日本に最適」と語るように、本来はブロードバンド回線の利用効率を上げるのに有益な技術である。ビットトレントがネット社会の基盤になりうるのか、今後注目していきたい。

ビットトレント実証実験サイト

東京国際映画祭に連動して、一般からのショートムービーを募集した「東京ネットムービーフェスティバル」の優秀作品の配布において、ビットトレントによる配布の実験が行われた。

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