紙の書籍を買う切っ掛けにもなる?
── 例えば、文庫本の売り上げが激減するなど、このDVDの配布は出版業界に影響を与えますかね?
津田 大きな悪影響はないと思います。そもそも紙の書籍と電子書籍では、市場がまったく違いますから。むしろ「青空文庫で作品を知ったけど、やっぱり紙の本で読みたい」という流れで、紙の書籍のニーズを掘り起こすことになるかもしれません。
ちなみに定番の文学作品というと、すでに数多くの人が持っていて、本もあまり売れないというイメージがあるかもしれませんが、パッケージ次第で売れ行きも変わります。
最近では、太宰治の「人間失格」の表紙を、「デスノート」などを手掛ける人気漫画家・小畑健のイラストにしたことで、3ヵ月で10万部を突破するヒットとなったニュースがありました。長い間生き残ってきた過去の名作は、売り方次第でまだまだ売ることができる、ということのいい証明なんじゃないですかね。
「同じ300万円だけど、どちらが文化を豊かにしているのか」
── 個人的にこのニュースで驚いたのは、青空文庫がDVDの作成と送付の費用を自己負担するという点です。青空文庫は2006年の広告収入が316万円なのに、それと同じ規模にあたる300万円をこのDVDの事業に費やしている。そこに「本気度」がうかがえます。
津田 この300万円というのは、実はとても面白い数字なんですよ。
(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)や日本文藝家協会など、17の権利者団体が参加する「著作権問題を考える創作者団体協議会」は今年の8月に、創作物の利用の促進を図るためのポータルサイトを作る構想を発表していました(参考PDF資料)。その初期投資額が「200〜300万円程度」なんです。
この資料だけ読むと、著作者側が著作物を登録し、利用者が権利者情報を引き出して、問い合わせ先を調べられるという、ひとつの大きなデータベースを用意したポータルサイトを想像するかもしれません。
しかし2009年1月予定のスタート時において、このデータベースや検索システムは、そもそもある17の各権利者団体が個別に用意した検索システムに飛ばすというだけというお粗末なもので、そんなポータルサイトを作ることにどれだけの意味があるのかという話ですよね。
僕が問いかけたいのは、同じ300万円を投資するにしても、リンクだけのポータルサイトを作るのと、このDVDを寄贈するのでは、果たしてどちらが文化を豊かにしているかということです。
青空文庫は文化活動を純粋に支援するするために、ボランティアの形でさまざまな面で非常に努力している。権利者団体には、そうした「文化の発展に寄与する」姿勢をちょっとでもいいから見習ってほしいですね。「著作権の保護期間を死後70年に延長してくれ」と要望する前にやることがあるだろ、と。
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