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Macintoshの「美学」

2007年10月28日 16時10分更新

文● 石井裕(MITメディア・ラボ教授)

Macの系譜


 これまで本連載では、MITメディア・ラボのHCI(Human-Computer Interaction)に関する研究について、そこから生まれたさまざまなアイデアやプロセスを、どちらかというとシリアスで学術的なスタンスから紹介してきた。今回はそのスタンスを少し離れて、Macintosh誕生以来の忠実かつ熱狂的なユーザーである筆者の思うところを、自由に述べてみたい。いや、私の熱狂はMacが誕生するはるか前から始まっていたと言っても過言ではない。その付き合いは、Macの祖先にあたる米ゼロックス社のワークステーションにまでさかのぼることができる。

Office
@MIT Media Laboratory, Cambridge

 Macの愛好家であれば誰でも知っているストーリーだろうが、パーソナルワークステーションの原型を築き上げたゼロックス社の伝説的なマシン「Alto」の遺伝子は、'81年に発表された「Star Information System」という初めての商用機に引き継がれた。このStarはGUI(Graphical User Interface)と水平分散型システムを具現化した、革新的なオフィスワークステーションであった。幸い、私はこのマシンを使って技術資料や論文を作成する仕事に恵まれ、Starが放つシステムデザインの美学を堪能できた。

 それは、従来のメインフレームによるセンター/コンソールという中央集権的なシステムアーキテクチャーを根本から覆す、サーバー/ワークステーション間の画期的な機能分散の可能性を証明した。さらにStarのユーザーインターフェースは、それまでの細い回線を介した文字ベースの画面表示から、マウスとフルビットマップのモニターを使ったビジュアルインターフェースへと、革命と呼べるほどの飛躍を見せてくれた。

 真の統合文書処理システム、オブジェクト指向のソフトウェアアーキテクチャー、普遍的なプロパティーシート、ユニバーサルコマンド、ページ記述言語とレーザープリンターによる画面上で見たままのイメージ印刷……。そして、そのレーザープリンターや、膨大な情報を仲介するクリアリングハウスといった共通の機能をサーバーに集約したアーキテクチャーなど、Starの貢献リストを挙げ始めるとスペースがいくらあっても足りない。

 アップルのLisaやMacintoshは、StarやAltoに多大なる影響を受けているが、残念ながらその設計思想のすべてを継承したわけではなかった。引き継いだのは、主にWIMP(Window Icon Menu Pointer)と呼ばれるGUIのキーコンポーネント。その当時、ほかのマシンは基本的に文字ベースのCUI(Character-based User Interface)を採用したものしかなく、時を経てStarが、次いでLisaが市場から消えた結果、その血統を継ぐマシンはMacしかいなくなった。Starと比べるとMacは多くの点で異なっていたが、抜群にセンスのよいユーザーインターフェースは、'80年代後半のモダンコンピューター黎明期にひとり輝きを放っていたのだ。


ユーザーインターフェースの一貫性


 従来の「思い出してタイプする(remember and type)」に対し、Macは「見てクリックする(see and click)」というパラダイムを広く普及させた。

 また、「MacWrite」や「MacPaint」という名作ソフトをすべてのモデルに搭載し、「Apple Human Interface Design Guidelines」を出版してMacの思想を徹底させた功績は非常に大きい。サードパーティーがMac市場に投入した多くの製品でもユーザーインターフェースの一貫性を保証するため、ふたつのサンプルソフトとガイドラインが重要な役割を担ったわけだ。

 使いやすいインターフェース、レーザープリンター「LaserWriter」とページ記述言語「PostScript」の出会いによるDTP文化の開花、そしてWYSIWYG(What You See is What You Get)という明快な美学が持つ実業界に対するインパクト──StarやAltoに源流を発した、ユーザーインターフェース哲学の金字塔がMacなのである。


(次ページに続く)

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