このページの本文へ

【これだけは抑えておきたいSaaS・ASPの基本】

ネットが主導するアプリケーション革命「SaaS・ASP」 Part2

2007年10月30日 16時10分更新

文● 話●城田真琴

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

ネットバブル期に一度流行したものの失速したASP。それが欠点を克服して再登場したものがSaaSである。ブロードバンド回線の普及とともに伸びていくSaaSは、初期費用をかけずにシステムを導入したい企業に歓迎されている。


SaaSとASPの違い


 ネットバブルの終焉とともに姿を消したかに見えたASPは、アメリカで「SaaS」という新しい名称を看板にして、2005年くらいから再び台頭してきた。

「SaaSについて語るには、セールスフォース・ドットコムを抜きにするわけにはいかないでしょう。同社は1999年の創業ですが、ネットバブルの崩壊を生き残りました。その理由は、同社が最初からマルチテナントのアーキテクチャーを持っていたからです」

 マルチテナントというのは、サーバーとデータベースを複数の顧客で共有する方法。前述のシングルテナントに対して、ベンダー側の効率が飛躍的に向上する。スケールメリットが享受できるため、コスト効率がよくなるからだ。

 もうひとつ見逃せないことがある。マルチテナントではひとつのプログラムを複数の顧客が使うシングルシステムを採用しているので、パッチを当てたりバージョンアップをするとき、1本のプログラムを書き直すだけで済む。それに対して、従来のシングルテナントでは、顧客ごとに個別のプログラムを使っているため、100人のユーザーがいたら100本のプログラムに手を入れる必要があるのだ。両者では運営上の手間が雲泥の差だ。

「セールスフォース・ドットコムは、2004年に自分たちのサービスをカスタマイズ可能にしました。従来のASPでは、カスタマイズはできないもの、あるいはできても多額の追加費用が必要だったため、これは画期的なことでした。それが功を奏して、シスコなどの大企業が採用するようになり、急成長を遂げます。その成功を受けて、追随するベンダーが次々と現れ、SaaSという言葉が流行するようになったわけです」

 この流れを見ていくと、2000年前後のASPと現在のSaaS・ASPの違いが見えてくる。「SaaS・ASPを前提としてシステムが設計されていること」「サーバーとデータベースを複数の顧客で共有するマルチテナント」、「すべての顧客が同じプログラムのアプリケーションを使うシングルシステム」、そして「カスタマイズの可否」である。

「ただし、カスタマイズができないからといって、古いタイプのASPと決めつけるのは早計です。たとえば会計システムなどは、ほとんどカスタマイズの必要がありませんから、わざわざその機能を持たせなくてもいいわけです」

 さらに最新のSaaS・ASPでは、データ連携のためにAPIを公開しているものがある。これも古い時代のASPには見られなかったものだ。

「あるサービスで作成したデータを、他のサービスで使うために、いちいちCSVファイルでダウンロードするというような作業は、あまり近代的とはいえません。これからのSaaS・ASPでは、API公開によるデータ連携が当たり前になっていくでしょう。そのことによって、複数のSaaS・ASPを利用することが可能になります」

 操作画面にAjaxなどのWeb2.0の技術を取り入れ、操作性を向上させているのも、最新のSaaS・ASPの特徴である。古いASPでは、どこか1カ所を修正しただけでも画面全体をリロードする必要があったが、現在のものは随所にAjaxが使われ、Googleなど、一般のWebアプリケーションに近い操作性を実現している。そのあたりのことは、「お試し版」などを実際に操作してみれば、すぐにわかるはずだ。

「セールスフォース・ドットコムが採用している1カ月間無料の試用サービスは、正式契約するとそのままシームレスに継続でき、入力したデータがムダになりません。これはマルチテナント・シングルシステムだから実現できていることです」

 ただしこれらの「違い」はすべてのサービスベンダーに共通するものではない。現時点では、セールスフォース・ドットコムに代表される一部の先進ベンダーと他のベンダーとの間で、かなりの差があるのが実情だ。

●従来のASPと最新のSaaS・ASPの違い(画像クリックで拡大)


城田真琴氏

著者・城田真琴(しろた まこと)氏プロフィール

野村総合研究所主任研究員。IT動向のリサーチと分析を行うITアナリストとして活躍中。大手メーカーのシステムコンサルティング部門を経て2001年、野村総合研究所に入社。専門はBI、SOA、EAなど。著書に『SaaSで激変するソフトウェア・ビジネス』(毎日コミュニケーションズ)などがある。


カテゴリートップへ