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「技術のソニー」復活の狼煙となるか?

ソニー、世界初の「有機ELテレビ」発表会を開催

2007年10月01日 23時19分更新

文● 編集部 小西利明

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ついに製品化された世界初の有機ELテレビ「XEL-1」

ついに製品化された世界初の有機ELテレビ「XEL-1」

 既報(関連記事)のとおり、ソニー(株)は1日、世界初となる有機ELディスプレーを搭載したデジタル放送対応テレビ「XEL-1」を発表した。同日、同社本社にて行なわれた新製品発表会では、同社の役員らにより、同社が有機ELテレビにかける意気込みや、製品の特徴についてが披露された。なお、仕様や価格については関連記事を参照のこと。

 XEL-1は11インチサイズと小型ながら、台座部分に地上/BS/110度CSデジタル放送チューナーを内蔵する、れっきとした3波対応デジタル放送テレビである。ただし解像度はさすがに低めで、960×540画素(フルHD解像度の4分の1)となっている。同社が米国で1月に開催された家電総合展示会「International CES 2007」で出展した試作機(関連記事)は解像度1024×600画素だったので、若干解像度は下がったことになる。

11インチというサイズは、机の上で使うなどパーソナルユースには最適のサイズ

右は付属のリモコン。11インチというサイズは、机の上で使うなどパーソナルユースには最適のサイズ。もっとも、パーソナルテレビで20万円というのは高い、というのが正直なところか

 右にオフセットしたアームにより、中に浮いたようなデザインのディスプレー部分は、50度ほど後ろに倒れて、見やすい角度に調整できるようになっている。ディスプレー部の厚みは最薄部でわずか3mmと、斬新なデザインと相まってテレビには見えないほどだ。

 小型ながら本体にスピーカー(1W+1W)を内蔵するほか、地上デジタル放送用のロッドアンテナも装備している。また、液晶テレビ「ブラビア」などでおなじみのユーザーインターフェース「XMB」(クロスメディアバー)を備えたり、テレビ専用コンテンツ配信サービス「アクトビラ」にも対応している。入力端子類はアンテナ入力系のほかに、HDMI入力を1つとUSB端子1つを備えている(アナログ系の入力端子はない)。詳しい説明はなかったが、会場でのデモ展示ではUSBメモリー内にある静止画や動画を再生していたようだ。現代のデジタル放送テレビに求められる機能は、不足なく備えていると言えよう。

端子類は本体部背面に集中している

端子類は本体部背面に集中している。アンテナ端子は地デジ用とBS/CS用の2つ


「技術のソニー」復活を目指して

飛び入りで挨拶を述べたソニー 代表取締役社長の中鉢良治氏

飛び入りで挨拶を述べたソニー 代表取締役社長の中鉢良治氏。「技術のソニー」復権への強い意気込みが有機ELテレビには込められている

 発表会の冒頭では、同社代表取締役社長兼エレクトロニクスCEOの中鉢良治(ちゅうばち りょうじ)氏が飛び入りで登壇し、有機ELテレビにかけた思いを語った。中鉢氏によれば、今回の製品化に至るまで、14年間もの時間がかかったという。中鉢氏は「『技術のソニー』の復活を目指した不断の努力と、生産事業所、マーケティングに携わる多くの社員たちが、途切れることなくたすきリレーのようにたすきをつないできた。その成果ではないかと思っている」と述べ、多くの社員の長年に渡る努力を称えた。

 中鉢氏に続いて登壇した、同社代表執行役副社長の井原勝美氏により、XEL-1の大まかな特徴が語られた。井原氏はXEL-1の特徴としてまず薄さを挙げた。有機ELディスプレーはいわゆる「自発光型」の表示装置である。井原氏は液晶パネルのようなバックライト、プラズマディスプレーパネルのような放電空間といった厚みを要する部品が存在しないため、非常に薄型に作れるとした。細いアームでディスプレー部が浮いたようなデザインについては、「空中を浮遊するような浮揚感」を狙ったという。薄いディスプレーだからこそ実現できるデザインと言えようか。

井原勝美氏

XEL-1を手にした代表執行役副社長の井原勝美氏

 有機ELテレビ最大の特徴である画質については、同社テレビ事業本部 E事業開発部 部長の白石由人氏により、コントラスト輝度色再現性動画性能の4点について説明が行なわれた。まずコントラストについては、同社にある測定器(100万:1まで測定できる)の測定限界を超える値(全白対全黒比)を実現しているという。つまり、カタログスペックにある値は測定器の限界にすぎず、より精密な測定を行なえる測定器があれば、これ以上の数値が出るという。さらに白石氏は、技術者として有機ELディスプレーに「もっとも惚れた点」として、「完全カットオフ」を挙げた。これは、黒の部分は発光部をオフにしてしまうことで黒を表現することを意味し、バックライトもないため、液晶ディスプレーのような光漏れとは無縁で、締まった黒を表現できる。

ディスプレー部分を掲げてみせるテレビ事業本部 E事業開発部 部長の白石由人氏

ディスプレー部分を掲げてみせるテレビ事業本部 E事業開発部 部長の白石由人氏。薄すぎて、真横にすると写真では見えないくらいだ

有機ELテレビの高画質を実現する4つの特徴

有機ELテレビの高画質を実現する4つの特徴

 輝度は600cd/m2であるが、有機ELディスプレーでは、ピーク輝度の高さが特色であるという。白石氏は、液晶パネルでは全体が白い場合も、スポットで白い場合も輝度は同一であるが、有機ELディスプレーでは狭い部分ほど輝度を高くすることができると述べた。これにより、「キラリと光る」映像表現が可能で、金属表面での光の反射やネオンサインのような映像を、非常に明るく表現できるという。

表示領域の広さによる輝度の違いを示すグラフ

表示領域の広さによる輝度の違いを示すグラフ。液晶は均一だが、有機ELでは狭いほど高い=ピーク輝度が高くできる

階調による色再現性の違い

階調(入力レベル)による色再現性の違い。液晶は低階調時に落ちこむ傾向にあるが、有機ELではほぼ均一に近く、暗い絵でも色がくすまない

 色再現性については、NTSC比110%と一般的な液晶ディスプレーを大きくしのぐ。さらに白石氏は「暗い側でも色が崩れない」と述べ、液晶ディスプレーが苦手とする低階調側の表現力も高い点が、有機ELディスプレーの優れた質感表現をもたらしているとした。

 動画応答性能については、ミリ秒単位の液晶ディスプレーに対してマイクロ秒単位と、「液晶の1000倍くらい」(井原氏)という高速応答速度を誇るという。さらに、最新の液晶テレビでよく利用されている「黒挿入」※1技術を組み合わせることで、残像感のない映像表現を実現している。

※1 映像の表示速度を秒間60フレームから120フレームへと倍増したうえ、映像フレームの次に黒いフレームを挿入することで、残像感を低減する技術。

パネルそのものはわずか1.4mm!

薄いパネル部分を構成する部材。パネルそのものはわずか1.4mm!

 また、自発光型表示装置で懸念される表示の“焼き付き”についても、材料とパネル駆動回路の改良により、3万時間程度(1日8時間表示で10年以上)の寿命を実現しているという。消費電力も液晶テレビと比較して、インチ当たり40%の消費電力低減を実現している。

異例の高価格も、映像美にこだわる消費者をターゲットに

 XEL-1の価格は20万円と、11インチの個人・家庭向けテレビとしては非常に高額な商品となっている。月産数量も2000台程度と、けして多くはない。それゆえソニーではこの商品を、ある程度ターゲットユーザーを絞った高級品としてプロモーション展開していくようだ。

 新聞広告展開の重視や店頭展示などによる体験のほかに、高級感のあるロケーションでの体感展示を展開していくという。例えば、東京六本木にある高級ホテル「リッツ・カールトン東京」のクラブラウンジや、成田空港にある日本航空(株)のファーストクラスラウンジ、トヨタ自動車(株)の高級車ブランド「レクサス」を展開するショールーム「レクサスギャラリー高輪」などに展示し、来場者に対して体験できる場を設ける。

価格より画質を重視する消費者層を狙うべく、高級なロケーションでの体感展示を展開する

高価格な製品ゆえに、価格より画質を重視する消費者層を狙うべく、高級なロケーションでの体感展示を展開する

 将来的なプランとしては当然大画面化が挙げられているものの、高画質を生かしたプレミアム商品として、価格面では当面高価格な製品であり続けるのではないかと思われる。実際、今回の製品化に合わせて製造ラインの増強等は行なわれる予定はなく、早期に生産数量を大幅に増やして低価格化を実現する……という方針は、今のところとらないようだ。

 いずれにせよ、かつて「トリニトロン管」で一世を風靡したソニーにとっては、有機ELテレビの商品化実現は、念願とも言える技術面での先進性・独自性を打ち出せる技術の実用化である。その優れた画質と高級感のある商品展開によって、「テレビはソニー」というブランドイメージを再び築くことができるか。有機ELテレビの今後からは目が離せない。

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