WBS作成の効果とは
またWBSを作成することは、見積もりの精度を上げることにつながります。WBSの作成は必要な作業を細かく分解していくことになるので、1つ1つのコストが明確になり、自ずと全体にかかるコストが明瞭化し、見積もりの精度も上がるというわけです。これはコストだけでなく、スケジュールに関しても言えることです。1つに掛かる作業時間がわかれば、全体でどれくらいの時間が必要か算出できるでしょう。
逆に言えば、WBSから必要事項が漏れると、スケジュールから漏れ、役割分担から漏れ、コスト見積もりから漏れることになります。
しかし、作業を具体的にわかりやすくするためとはいえ、WBSの粒度をあまり細かくしすぎると逆に煩雑になってしまう可能性があります。WBS作成は特にこうすべきという決まりはありませんが、自分がマネジメントしやすい粒度にするといいでしょう。また、それぞれの項目を同じ階層にする必要もありません。自分が把握できない項目がわかるようになるまで細分化すればいいのです。あくまで、プロジェクトを管理しやすいスケールや階層に分けるということです。
たとえば、開発環境を作成する作業など、繰り返し実施していることは作業内容もわかっているのでそれほど細かくしなくてもいいでしょう。一方、新しい業務システムを開発するなど経験のない作業の場合は、ある程度の細分化が必要となります。
また、業務システムの開発の作業項目だけでなく、旧システムからのデータの移行が必要なのか、オペレーション訓練は必要なのかなど、周辺の作業についても作業に漏れがないようにWBSを作成します。WBSを作成するのは非常に大変ですが、プロジェクト成功のためにはとても重要な作業と言えます。それぞれが重複することなく、全体として漏れがないMECE(注2)の考え方によるといいでしょう。
注2:MECE(Mutually Exclusive Collectively Exhaustive)
MECE(ミッシー)とは、世界的なコンサルティングファームであるマッキンゼー社が考えたコンセプトで、ビジネスにおける問題分析を行なう上で重要な考え方。
WBSはプロジェクト進行中も常に見直しが必要
さて、WBSの作成においても、キーワードになるのが「組織のプロセス資産」です。組織のプロセス資産とは簡単に言うと、先輩が蓄積してきたプロジェクトの計画書や事例書に書かれていることや、経験者や専門家の意見を参考にすることです。何もないところからWBSを作ろうと思っても難しく、漏れや間違いなどが起こる可能性が高いと思います。過去の事例を参考にする際には、前回のプロジェクト時に漏れていて後に補足したところや、トラブルになったところなどは、問題を掘り下げる意味でも特に注意を払ったり、詳細にしたほうがよいでしょう。
WBSは漏れがないようにと言いましたが、プロジェクトの立ち上がり段階から完璧に作り上げる必要はありません。最初は上位のものだけで、詳細がわかるにつれて階層を増やしていけばいいのです。つまり、プロジェクトを進行していく上で徐々に詳細化していくというわけです。
また、このとき「目標(制約条件)」と「目的」を混同しないことが大切です。プロジェクトは大きな目的があって進むわけですから、コストを削減するとか、スケジュールを短くするなど目の前の「目標」に惑わされないようにしましょう。目的が目標にすり替わってしまうと、作成されるWBSにも最終成果物にも影響が出ます。大きな目的を達成するのに必要な作業を明確にするのがWBSであることを今一度確認してください。
プロジェクト成功のポイント
・プロジェクトの曖昧さを無くしていくのがスコープマネジメント
・WBSの項目は全体として漏れがないようにしなければならないが、最初から完璧にはできないので順次詳細化して精度を高めていく
・WBSも組織のプロセス資産を生かし、先輩、経験者、専門家などの意見を積極的に聞く
■関連スキルアップコース(富士通ラーニングメディア)
・プロジェクトマネジメントの技法
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