月刊アスキー 2007年10月号掲載記事
英国では、英国貿易産業省がリーダージップをとり、コンピュータ関連産業を英国の主力産業のひとつに育て上げていこうとする国家プロジェクトが進められている。今回、英国政府の厚意により、このプロジェクトを取材する機会が得られたので簡単ながらレポートを記したい。
英国には、その頭脳養成機関として世界に誇るオックスフォード/ケンブリッジ大学を有しており、これらの研究室等から生まれた新技術を基軸にしたベンチャー企業も数多く登場している。英国政府は、こうした規模は小さいが世界水準の技術を持つ企業を世界に羽ばたかせるための後援を行っている。言うなれば、近年まで韓国政府が行ってきたようなIT支援施策を実践し始めたといえる。この動きは英国全土的に広がりを見せているが、特に独立系の(=特定のプラットフォームホルダに傾倒しない)有力ゲーム/アニメーションスタジオが数多く存在するイングランド北東部は「英国のシリコンバレー化」をスローガンにしているほど活発だ。
英国政府は1999年、この地域に英国北東イングランド経済開発公社を設立。そして、早くからコンピュータゲームとアニメーションに関連した学科を設定していた、この地域の名門大学であるティーズサイド大学と連携し、卒業生によるベンチャー事業の起業を支援する取り組みを行っている。
また、ゲーム開発者会議も年に一度開催されている。英国政府は資金援助の他、世界各国の有力なゲーム関連企業関係者を招待し、自国内の開発者と引き合わせてビジネスチャンスを拡大するためのミーティング機会まで作っているのがユニークだ。
英国ではXbox 360の人気が高く、wiiがこれに迫る勢いで追い上げ、PS3は注目度こそ高いものの苦戦中。しかし、SCE純正のPS3向け開発フレームワーク「Playstation Edge」のコア部分は英国で開発されており、実はPS3プラットフォームの英国への依存度は高い。欧米地域ではキラータイトルとまで言われるPS3専用ソフト「Heavenly Sword」の開発元、またXbox 360への2ミッション独占供給をマイクロソフトが大枚を叩いて獲得した「グランドセフトオート4」のシリーズ開発元、これらはすべて英国のスタジオだ。英国政府は、自国スタジオがゲーム機戦争のキープレイヤーとなっている現在を好機と見て、ゲーム産業育成に傾倒していると思われる。
ハード/ソフト技術開発がやや欧米主導となりつつある現在、そろそろ日本にも強いリーダーシップを伴った産学連携の動きが必要ではないだろうか。