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石井裕の“デジタルの感触” 第5回

石井裕の“デジタルの感触”

入出力一体型タンジブル・ユーザー・インターフェース

2007年08月11日 23時40分更新

文● 石井裕(MITメディア・ラボ教授)

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inTouch


「inTouch※1」は、触覚を使ったインター・パーソナル・コミュニケーションの新しい形を探索するためのメディアである。

※1 「inTouch」は、スコット・ブレイブとアンドリュー・ダーリーが'97年に第1世代のプロトタイプを実装。翌'98年にフィル・フライが新しいデザインを与え、ヴィクター・スーの強力を得て多くの実験用プロトタイプを制作した。インタッチについては、石井/ブレイブ/ダーリーによる論文を参照のこと:Brave, S., Ishii, H. and Dahley, A., Tangible Interfaces for Remote Collaboration and Communication , in Proceedings of CSCW '98, (Seattle, Washington USA, November 1998), ACM Press, pp. 169-178

フォース・フィードバック技術を用い、人々が距離を隔てて同じ物体を操作しているという幻想を作り出す。遠く離れたユーザーとの間で触覚通信のリンクとして機能し、ローラーの回転を通して情報の発信と受信を同時に実現するのだ。

inTouch

inTouch

 同じ形状をしたペアのインタッチ・デバイスは、それぞれ3本ずつ自由に回転するローラーを備えている。フォース・フィードバック技術によってそれぞれのローラーの動きが同期するよう機械的に制御されており、片方のローラーを回転させると、他方のデバイスでも対応するローラーが同様に回転する。また、双方のローラーを逆方向に回転させると「デジタル・スプリング」機能が働き、ユーザーはローラーから抵抗力を受け取る。この触覚と抵抗力により、離れたところにいるユーザーがその存在を互いに感じられるのだ。

 ローラーの回転と抵抗をどのような意味に解釈するかについて、システムはまったく関知しない。ユーザー同士の解釈にゆだねているからである。そのため、ユーザー自身が自由に触覚を用いた新しいコミュニケーション言語をデザインできるのがこのシステムの特徴とも言える。さらに重要なのは、「身体」の存在を触覚という最も物理存在に密接した感覚を通して「確信」できること。タンジブルの本質は、その定義にもあるように、単に触れられるだけでなく「存在を信じられる」ことにある。

 インタッチでは、木製のローラーが入力デバイスであると同時にフォース・ディスプレーにもなっており、入力と出力の境界がまったく存在しない。さらに、触覚をコミュニケーションに応用することで、情報を送ると同時に相手からの情報も手のひらを通して感じ取れる。この同時双方向性が、触覚を用いるインタッチの特徴である。


(次ページに続く)

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