月刊アスキー 2007年9月号掲載記事
産婦人科の世界で、ウェブビジネスのお手本になるようなサービスが展開されている。「産婦人科デビュー・COM」がそれだ。産婦人科のポータルサイトなのだが、ターゲティング、ビジネススタイルの2点に注目したい。
まず、ターゲティングだが、「妊婦とIT」という組み合わせに気がついた点が素晴らしい。運営元のユー・ディー・コーポレーション(以下ユー・ディー)代表取締役 岡本敏秀氏は言う「お年寄りの多い一般病院と違って、産婦人科に通うのは主に若い女性です。だから、情報収集をするとしたら、ケータイやPC を使う。産婦人科とITの親和性というのは、とても高いのです」。言われてみれば当たり前なのだが、これはなかなか盲点ではないだろうか?
さらに同社のビジネススタイルも秀逸だ。彼らは、産婦人科に対してITサービスを提供し、妊婦そのものを直接顧客にはしていない。産婦人科のITサービスのアウトソーシングを請け負っているのである。そのサービス一覧が本ページ左のアイコン群なのだが、ビジネスのコアとなるのは「産婦人科デビュー・COM」内の「全国産婦人科一覧紹介」コーナーである。これは全国のさまざまな産婦人科が登録されたデータベースで、産婦人科は無料で登録できる。
まずここで、ユー・ディーと産婦人科のリレーションが取れるわけだが、ここから彼らは有料サービスを展開していく。たとえば、産婦人科内をビデオで撮影した「産婦人科・TV」、生まれた赤ちゃんの写真をケータイでアップして家族で共有できる「TinySmile」といったサービスを有償提供するのだ。特に、赤ちゃん誕生時の産声をCDに収め、レーベルに足形をシルク印刷した「オギャーCD」はビジネスの基幹となる。いずれのサービスも妊婦は産婦人科からプレゼントとして提供され、金銭的な負担はない。いわゆるB2B2Cのビジネスなのだ。妊婦や産婦人科に、必要最低限の無償プラットフォームを提供し、差別化オプションで利益を得るという手法は、いわゆるウィン‐ウィンの関係構築という意味でも、注目に値する業態と言えよう。対象層の発見といい、業態の発想といい、ウェブビジネスで見習う点が多々あるサイトである。