日本アイ・ビー・エム(IBM)とSAPジャパンは、7月4日、東京・六本木のグランドハイアットでカンファレンスイベント「IBM/SAP Business Innovation Conference」を開催した。両社のエグゼクティブが来日し、「企業価値を高める最適な選択」をテーマに講演を行なった。
SOAでシステム構築は“作る”から“選ぶ”時代へ
基調講演の最初に登壇したのは、アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティングサービス(IBCS)の代表取締役社長である椎木 茂氏。椎木氏は、ITに求められることとして、(1)変化への即時対応、(2)投資前の効果予測、(3)費用の最適化――を指摘。これらを実現するのが、SOA(サービス指向アーキテクチャ)であると位置づけた。
SOAは、アプリケーションを業務にとって意味のある単位(ビジネスサービス)で分解し、これらを組み合わせてシステムを構築する手法。椎木氏は、「SOAの考え方自体は以前からあったもの、ミドルウェアなどがそろったことで実現可能な環境が整った」との見方を示した。
その上で、「これからのシステムは、“開発”からあたかもカタログからサービスを“選ぶ”作業になる。これは企業経営にとって非常に大きなインパクトがある」と強調。IBMとIBCS、SAPの3社が協力することでSOAを実現できるとアピールした。
将来はIBMの35万人が使うSAPへ
続いて米IBMのCIOオフィス/エンタープライズインテグレーションアーキテクチャ担当ディレクターのマイケル・マーティン氏が登壇、「グローバル統合企業であるために」と題して講演を行なった。
米IBMは、1994年にSAPのERP導入を開始、現在では基幹系の重要なコンポーネントとしてSAPをグローバルで利用している。現在のユーザーは2万人に上るという。「IBMの社員は業務の一部でSAPを使っている、すなわちSAPユーザーであるといっていい。特にHR(人事管理)では最新のSAP ERPを使う計画で、将来は全世界の35万人がSAPを使うことになるだろう」(マーティン氏)。
IBMがSAPを選択した理由について、マーティン氏は「プロセス統合による業務変革や、グローバル対応を実現するにあたってはSAPが非常に役立つ。SAPはIBMにとって最適な選択肢だった」と振り返る。
同社では、「グローバルでの業務プロセスの見直しが重要」との認識から、業務統合に取り組んでいる。「ソフトウェア」「ストレージ」といった事業体とは別に、「クライアント向け」「サプライチェーン」「従業員管理」などの業務プロセスごとに「プロセス変革エグゼクティブ」という職を設けた。各業務プロセスごとに責任を持つことで、「業務プロセスのすばやい変更が可能になる」という。
SAPによるSAPのアップグレード
基調講演の最後には、独SAPでSAP社内の情報システム運用を統括するCIOオフィスのチーフ・オペレーション・オフィサー/バイスプレジデントであるマーティン・ハイジィグ氏が登壇した。
ハイジィグ氏は、2006年後半から2007年にかけて行なわれたERPのアップグレード作業について紹介した。この作業でSAPは、ERPのコア部分をSAP R/3 4.6Cから、SAP ERP 6.0にバージョンアップするとともに、Unicodeへの切り替え、データベースのDB2への変更を同時に行なった。
DB2へ切り替えたのは、高圧縮機能によってストレージ容量を圧縮できる、ライセンス・保守費用を低減できるなどの理由からである。同社の場合、4000~6000ユーザーが同時利用する大規模なシステムにもかかわらず、「準備にかけられる時間は、4~5カ月しかなかった」(ハイジィグ氏)という。
ハイジィグ氏によると、プロジェクトは、あらかじめプロタイプをつくって十分なテストを行なう、「実は83%は使われていなかった」(ハイジィグ氏)というカスタムコードをそぎ落すなどの取り組みにより、無事に作業は完了。2007年2月から新システムの実運用に入っている。
同氏は、「アップグレードにはユーザーの積極的な参加、関係者との調整が不可欠」と語った上で、「システムではなく、業務プロセスを重視することでプロジェクトは成功する」と強調している。