ソースネクスト執行役員の小嶋智彰氏は、ウイルスセキュリティZERO開発の背景に関して、次のように話す。
「設立10年を迎えるにあたり、今後10年の取り組みについて社長や若手社員を含めた数名でブレストを行ないました。その中で、セキュリティーソフトの分野で、何かできないかという話が出たのです。企業としてのもうけはとりあえず考えないで、何をしたらお客さんに喜んでいただけるのか。それを考えたところ、更新料ゼロ円のセキュリティーソフトという発想が生まれました」
このアイデアをもとに試算してみたところ、「パッケージの購入代金に1980円、毎年1980円の更新料」という料金体系を、購入時に3780円払ってもらう形にすることで、収支を合わせることが可能だという結論に達したという。
アップデートはどのみちし続けなければならない
セキュリティーソフトの開発に際しては、大きく分けて3種類のコストを考える必要があると小嶋氏は話す。アップデート機能を提供するために必要なサーバーと回線の料金、ユーザーサポート費用、そして新しいウイルスに対応していくための“開発費”だ。
サーバー代や回線維持費は、年々価格が下がっているため、大きな問題にはならないと小嶋氏は言う。ユーザーサポートに関しては、実はこれまでユーザーから一番問い合わせが多かったものが“更新に関するもの”であり、思い切って更新そのものをなくしてしまえば、問い合わせ件数が減り、結果としてサポート費もぐっと抑えられるのではないかという結論に達した。
それでは、最後の開発費に関してはどうか?
「ワクチンはどのみち開発しなくてはいけないし、その費用は毎年一定です。更新料を毎年払ってもらうよりも、最初に2年分払ってもらうモデルで、たくさん販売したほうが、ユーザーにとっても得になるし、私どもにとっても以前より収益を出せることに気付きました」
継続した開発費を得るために、旧ユーザーにも開発費の一部を負担してほしいというのが、更新料金を取るメーカーからの言い分であった。しかし、新しいソフトを販売し続ける以上、メーカーはどのみちワクチンやウイルス定義ファイルのアップデートをし続けなければならない。これは新規ユーザーが1人でも1000万人でも同じである。また、使用するユーザーが増えても、パターンファイルの開発費用は一定である。古いユーザーが使おうと、配る人数が増えようと開発費そのものに大きな変化は出ない、というのがソースネクストの主張だ。
一方で、セキュリティーソフトを使うユーザーの数は圧倒的に増えている。更新料という“打ち出の小槌”もある。実はメーカーにとって、セキュリティーソフトはとても収益性の高いビジネスだったのだ。国内のセキュリティー市場は、ソースネクスト、シマンテック、トレンドマイクロの3社が90%を占めており、残りの10%のシェアーを10社ほどで取り合っている状態だが、仮に残りの10社が利益を上げられているとしたら、たったの1%のシェアーでもやる意味のあるビジネスなのだと考えることができる。つまり、セキュリティーソフトは相当に儲かる商売ではないかと想像できる。