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<シリーズ>「日本版SOX法後」の業務はどう変わるのか(2)

「現場改善なくして内部統制なし」――弁護士の牧野二郎氏

2007年05月21日 00時00分更新

文● 江頭紀子

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「日本版SOX法」で重要なキーワードとなっている「内部統制」は、言葉からはその意味がなかなかイメージしづらい。「シリーズ・日本版SOX法後の業務はどう変わるのか」第2回は、内部統制のスペシャリストとして活躍する弁護士の牧野二郎氏に、その本質や現場に与える影響、必要性について語ってもらった。

弁護士 牧野二郎氏

弁護士 牧野二郎氏


2つの法律に盛り込まれた内部統制――「業務統制」と「財務統制」


 そもそも内部統制とはどういうことで、誰のため、何のためのものか。その前提として「内部統制は実は“2本立て”になっていることを理解する必要がある」と指摘するのは弁護士・牧野二郎氏だ。2本立てのうちのひとつは2006年5月に施行された「会社法」。もうひとつはいわゆる「日本版SOX法」、つまり「金融商品取引法」の「財務報告に係る内部統制」だ。

「会社法における内部統制は、会社経営の健全性の確保が目的で、株主、従業員、消費者、取引先といったステークホルダーすべてに重要なもの。つまり不祥事を起こさないようにするためのもので、そのための業務の見直しが必要になる“業務統制”。一方の金融商品取引法は、財務上の不正を防ぐのが目的となる“財務統制”といえる」(牧野氏)

 そして、この2つは裏表の関係にあるのだという。営業活動(業務)で売上を計上すれば、その数字は財務上の数字の基礎になることからも分かるように、ほとんどの業務は財務、言い換えればお金が絡んでいるからだ。

 日本版SOX法や内部統制を考える上で、「財務報告に係る内部統制」だけに注目すれば、内部統制は財務関連部署だけが影響を受けるものだと思ってしまう。しかし、「業務と財務は表裏一体」という視点でみると、内部統制は業務に関わる人たち、すなわち全従業員に関係するものだといえる。


自分の仕事に誇りを持てるか――「内部統制」の本質


 では、現場において「内部統制が整っている」とはどのような状態のことなのか。牧野氏は「要するに、ウソや不正が生まれにくく、ミスを防ぐ体制ができていることだ」と話す。

 “体制作り”と聞くと、営業などの現場にとっては無関係に感じるかもしれない。だが、そもそも不正やミスが生まれる背景には、企業風土や職場環境が根本的な原因としてあり、そこで働く従業員に直接関係するものなのだ。

「たとえば、営業社員が売上を水増しするといった不正は、売れない商品をとにかく『売ってこい』とノルマ漬けにされ、士気が下がった職場で発生しやすい。一人ひとりの仕事に対するモチベーションが高く、プライドを持って働いている会社では、在庫を調整したり数字を書き換えたりという不正は起きにくくなる」(牧野氏)

 また、不祥事につながる恐れのある従業員のミスも、個人としての問題というよりも職場の環境によることが大きいという。「ミスをするのは個人だが、個人を攻めるような処罰や風土があれば、誰も本当のことを言わなくなってしまう」(牧野氏)ため、「あくまでもシステムの見直しに重点を置き、ミスを防ぐ仕組みを会社として確立することが重要だ」(牧野氏)。

 そこで現場に対して牧野氏は、「たとえ目標まで売れないような場合も、ウソの報告をするのではなく、『これしか売れなかった』と正直に報告するといい」としたうえで、「売れない理由を考えて、その対応策を提案する」ような積極的な姿勢を求める。現場の1人ひとりのこうした行動の積み重ねが、ミスや不正を生まない体制となり、ひいては組織(会社)全体の健全化につながるというわけだ。


【次ページ】内部統制とは「業務改善」――現場から「提案」していこう


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