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<シリーズ>「日本版SOX法後」の業務はどう変わるのか(1)

「現場はやや窮屈になるが、組織としてはレベルアップする」――監査法人トーマツの久保氏

2007年05月14日 09時54分更新

文● 江頭紀子

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日本版SOX法では、内部統制の監査を行なう監査人の存在が欠かせない。「シリーズ・日本版SOX法後の業務はどう変わるのか」の1回目は、大手監査法人である監査法人トーマツの代表社員であり、トーマツ企業リスク研究所の所長も務める久保惠一氏に、監査人の視点から現場の業務が具体的にどのように変わるのか、語ってもらった。

監査法人トーマツ代表社員・トーマツ企業リスク研究所所長 久保惠一氏

監査法人トーマツ代表社員・トーマツ企業リスク研究所所長 久保惠一氏


経営者評価とはすなわち社員による評価


「日本版SOX法の目的は、信頼できる資本市場をつくること。つまり粉飾決算を防ぐことだ。たとえ粉飾ではなくても、結果的に決算の数字が間違っていれば、内部統制が機能していないことになる。内部統制の強化は、こうした目的があるということを、まず認識してほしい」。監査法人トーマツ代表社員・トーマツ企業リスク研究所所長の久保惠一氏は、現場で働く従業員に対しても、制度への意識を持つよう呼びかける。

 今回の制度のポイントは、経営者が自社の財務報告に係る内部統制を評価し、その結果を「内部統制報告書」として提出。それを外部監査人が監査して「内部統制監査報告書」に意見を表明するというもの。このとき行なう内部統制の評価とは、「その業務について、定めたルール通りにきちんとした手続きをとっているか」ということである。

「『経営者が自社の財務報告に係る内部統制を評価』するのだから、一般社員は関係ないと考えるのは大間違い。経営者の評価は、そもそも社員が評価した結果だからだ」と久保氏は指摘する。

 というのも、経営者が自ら個々の業務レベルの評価をするのは難しく、実際の評価は現場に委ねられるからだ。具体的な評価方法は、内部監査部門などによる内部監査、もしくは現場(営業や販売、製造など)の担当者による自己評価、つまり自己点検があり、2つを併用している会社もある。久保氏は内部統制への自覚を促すためには、自己点検が有効だという。具体的にどの業務を評価するかは会社によって異なるが、対象となった現場は自己点検を採用していれば、業務を定期的に点検する必要が出てくるわけだ。

 久保氏によると、日本版SOX法に特に影響があるのは「販売」「購買」「在庫」に関係する部門。具体的には経理、営業、購買、在庫管理などである。取締役会事務局や監査役などコーポレートガバナンスに近い部門は関係する一方、扱う金額が少ない部門や新規事業部などは対象にならないこともあるという。

 日本版SOX法では、内部統制が適切に記録・保存されることを要求しているので、対象部門では業務を見直し、ルールをきちんと決めて文書化する必要がある。このルールがすなわち現場の仕事のやり方の変化につながるのだ。


【次ページ】日本版SOX法対応で現場の業務はどう変わる?


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