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MS樋口氏は“まじめにとことん突き進むタイプ”〈人〉

2007年03月06日 17時00分更新

文● 遠竹智寿子

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 昨日5日に発表された、マイクロソフト(株)の役員人事。ここで、前ダイエー社長の樋口泰行氏(49)が、代表執行役兼最高執行責任者(COO)に就任した。同社の代表執行役社長を務めるダレン・ヒューストン氏は、現段階での退任予定についてはないとしたものの、将来的には樋口氏がその役目を、引き継ぐ可能性があることも示唆した。ダイエー社長に転身し、約2年ぶりにIT業界に復帰した樋口COOの就任会見には、多くの報道関係者が詰め掛けた。

樋口新COO

マイクロソフトの新COOに就任した樋口氏

すみません。私、Windowsのことはよく分からないんです……」。

 これは10年前に樋口泰行氏が、アップルコンピュータ(株)からコンパックコンピュータ(株)(現日本ヒューレット・パッカード(株))に移ったばかりのころ、製品発表の記者会見で漏らしたコメントだ。もちろん、冗談混じりではあったが、樋口氏は知らないことに対して“格好”を付けたり、“取りつくろう”ことをしない。そんな実直な人柄である。

 松下電器産業(株)、アップル、コンパックを経て、2003年に合併後の日本HPで代表取締役社長に就任した。45歳という若さでの社長抜擢とあって、一躍、メディアにも注目される存在になった。2005年には、(株)ダイエーの社長に就任し、再生機構主導で経営再建に力を注いだ。昨年10月の退任時には、その一挙一動が注目される立場となっていた。

 昨日の会見でも「ここ数ヵ月は記者の方の姿が自宅に見えなくなって、平穏な生活を送っていた」(樋口氏)というコメントがあった。

 実際には、退任後も12月までは、ダイエーの顧問の座にあった。年明けにには訪米し、米マイクロソフト社の幹部に会っていたというから、多少英気を養う時間があったにしろ、その間も自身の進路について熟考し、慎重に動いていたと受け止められる。会見の席上では「本当はもう少しゆっくりしたかった」と本音もちらりとのぞかせた。



マイクロソフトの成功体験に引きずられてはいけない


 今回のCOO就任では、正式な発表前から、一部メディアに情報が出回っており、動向が注目されていた。記者たちの関心度も高く、会見の席でも、時間制限いっぱいまで多数の質問が投げかけられた。

 「これまでの多面的な経験をどう生かすつもりか」という質問に対して樋口氏は、以下のように答えた。

ダイエーでは、(それ以前の外資系企業の体制とは異なる)株主や組合との絡みを始め、ファンクションやストラテジーなど、あらゆるものすべてを把握しなければならかった。ここから非常に多くのものを学んだ。時間との戦いだったが、かけがえのない貴重な経験をしたと思う。また、IT企業にいると、自分たちの都合で技術を押し付けてしまいがちだ。しかし、顧客サイドを経験することで、ITのインフラは、顧客がそれぞれの戦略を実行するためにあるのだと、肌で感じた。こうした経験を今後のビジネスに生かしたい。

また、「現在のマイクロソフトで、自分の役割をどう方向付けていくつもりか」という質問には、以下のような見解をはっきりと述べた。

コンシューマと法人向けでは求められる企業文化が異なる。マイクロソフトはボリュームビジネスから発展してきたが、その成功体験を引っ張らずにエンタープライズビジネスをやっていく必要があると感じている。

発表会終了後の囲み取材の様子。多くの記者が詰めかけた

 今の心境について述べた「ハネムーン気分から帰ったら厳しい現実が待っているだろう」という言葉も、もしかすると自分自身への言い聞かせであったのかも知れない。仕事に関しては“まじめにとことん突き進む”タイプの樋口氏が、マイクロソフトが手がけるPLAN-Jの推進にどう貢献していくのか? 外資系の中の外資と言われる同社のカルチャーのもと、さまざまな経験を積んだ樋口氏ならではの取り組みが、どんな旋風を巻き起こすかが楽しみでもある。

 樋口氏はアップルにいた十数年前、自分がマイクロソフトのCOOに就任すると想像していたかどうかは分からない。しかし、同じIT業界でもカルチャーの違う技術畑、アップル、そしてHPでいくつかの合併などを経験することで、樋口氏が比較的近い位置からマイクロソフトを客観的に眺める機会に恵まれていたというのは確かだろう。その経験は今後のCOOの役職にも生かされるのではないか。

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